第二弾!サブスク配信でゲイ映画「ファイアー・アイランド」楽しげな映画だけど、実は結構過酷なゲイのリアル

Netflix、Amazon Prime、Disney+、Hulu、U-Nextなど、サブスクリプション配信で映画やドラマを楽しめるプラットフォームは増える一方。

そのおかげで、日本で見られる映画やドラマの数は一挙に増加。そんな配信で見られるコンテンツの中から、ゲイが主役または重要な役割を担う作品を連続紹介する連載コラム。

6月25日に「サブスク配信でゲイ映画『ファイアー・アイランド』ゲイの楽園を舞台に描く露悪的ボーイミーツボーイ」を公開したが、言及したいことが多すぎて一回では書ききれなかったので、第二弾を書くことにする。

第十一回「ファイアー・アイランド」第二弾

ファイアーアイランド

・この映画を50文字以内で表してみる
・ネタバレほぼなしの作品解説
・物語

この辺りは、前回の記事「サブスク配信でゲイ映画『ファイアー・アイランド』ゲイの楽園を舞台に描く露悪的ボーイミーツボーイ」をご参照いただくとして、早速、前回は書ききれなかったことを解説していく。

【警告】

ここから先は、かなりのネタバレ注意です。

あらかじめご了承ください。

「いい映画を見た気にさせる」問題を深堀り

ファイアーアイランド

前回はこの映画を50文字以内で「ボーイミーツボーイの露悪的ラブコメを、なんだかいい映画を見た気にさせるドナ・サマーの威力はすごい。(49文字)」と表したのだが、その「いい映画を見た気にさせる」問題を深堀りしていく。

ドナ・サマーの「ラストダンス」が流れる夕暮れの桟橋の場面と、その直前のデックス成敗からの流れで、気持ちよく映画は終わっていくので、なんとなく「いい映画を見た気」になるわけだが、ちょっと待ってほしい。

映画を見終わって時間が経つごとに「ラストダンス」の魔法も解けてくると、この映画の真の姿が見えてくる。実は、ファイアー・アイランドに存在するゲイの歴然としたヒエラルキーに穴を開ける爽快感も、真の意味でのゲイの友情も、まったく描かれていなかったということに。

ヒエラルキーの壁に穴は開いたのか?

ファイアーアイランド

「白人・金持ち・マッチョ」が最上位で、主人公のノアとハウィーのような「アジア系・貧乏」は下層クラスというヒエラルキー。

たしかにハウィーは、最上位に属するチャーリーと結ばれ、いい感じにはなる。しかし金持ち白人のチャーリーが最上位のクラスのど真ん中かといえば、それはまた違う。アジア人のウィルと友人であることから考えても、チャーリーはアジア人に対する偏見がもともと少なそうだ。

またチャーリーは、最上位のクラスのど真ん中にいる何かといえば裸になってセックス第一主義のマッチョたちとは異質の、穏やかでセックスよりも恋愛を好むタイプ。最上位クラスの真ん中ではなく、端っこの方にいるタイプとハウィーが結ばれたのは、悪い展開ではないが、ヒエラルキーの壁に穴を開けるようなダイナミズムは感じられない。

主人公のノアと結果的に結ばれたような形になるウィルにしても、チャーリーの友人で金持ちなので最上位クラスの住人のような顔をしているが、彼はアジア人。チャーリー以上に最上位クラスの端っこの端っこにいるにすぎない。

最下層クラスのノアと最上位クラスのウィルが結ばれたとしても、所詮はアジア人同士がくっついただけなのだ。

ファイアーアイランド

ノアは、ウィルの前には白人マッチョのデックスといい感じになる。たしかにウィルはイケメンでマッチョでセクシーな白人だが、金はないし札付きなので最上位クラスからは疎まれている存在。

デックスからすれば、ノアのような最下層クラスの非白人くらいにしか相手にされないという現実がある。ノアとデックスがいい感じになったことも、ヒエラルキーの壁に穴を開ける効果はまったくない。

それって、どんな「友情」なの?

ファイアーアイランド

そんな札付き白人のデックスが起こす問題からは、ゲイの「友情」の儚さというか薄っぺらさが垣間見えてくる。

ノアとデックスがいい感じになった後で、ノアたちのグループに属するルークがデックスとできてドラッグでぶっとんでいる時に撮られたハメ撮り動画を拡散されるという事件が起きる。

ルークはノアと仲が良いふりをしながらも、いつもマッチョなノアだけが美味しい思いをしていることを妬んでいたようで、デックスとデキたこと秘密にしながらも「私の方が(今年は)人気者よ」と勝ち誇った顔をする。

ハメ撮り動画が拡散され、デックスとルークがデキたことが分かり、怒ったノアがデックスをやっつけに向かう、という「いい話」的な展開になる。のだが、これはノアの心がすでにウィルに向かっているからに過ぎない。

ウィルという存在がいなければ、ノアとルークが取っ組み合いの”キャットファイト”をおっぱじめていても仕方ないシチュエーションだ。

デックス問題が片付いたあとで、ルークはキーガンにうながされてしぶしぶノアに感謝を述べる。それに対してノアは「僕らは友達以上、家族だ」と広い心で受け入れる。

これもまた「いい話」のようだが、それに続くノアの言葉「僕には君たちしかいない」が、ゲイが抱えるリアルを的確に表現している。

ファイアーアイランド

もともとマイノリティで人数が少ないうえに、人種や貧富の差などのヒエラルキーが歴然とあるなかでは、つるめる相手は限られてくる。往々にして若いうちにつるむ相手が決まってグループが形成されていくので、何年かして他のグループに移ったり、新たなグループを作るのは結構ハードルが高い。

人種の問題が少ない日本だって、アジアの他の国も、ゲイの世界は同じような状況だ。「君たちしかいない」から「君たちが家族だ」というノアの言葉も、一見「いい話」のようでありながら、厳しいゲイの現実を表している。

ハウィーとは大親友かのように振る舞うノアだが、サンフランシスコに住むハウィーに「まったく会いにきてくれないよね」と突っ込まれるので、ノアのハウィーに対する友情の深さにも疑問符がつくところ。

ファイアーアイランド

内心憎しみあってもいるけれど「友情」を装っていないとつるむ相手を失い孤独しか待っていない、というゲイに共通する問題は、古くは「真夜中のパーティー」やリメイクの「ボーイズ・イン・ザ・バンド」にも通じるもの。

ゲイを取り巻く社会環境が大きく変化したとはいえ、実は根本的な部分は「真夜中のパーティー」が描いた1960年代後半とあまり変わっていないのかも、とも思えてくる。

ニューヨークに限らず、国を超えて多くのゲイが抱える問題が根底にある映画「ファイアー・アイランド」は、いわゆる「いい映画」ではないかもしれないけれど、ゲイには共感するポイントが多いので、見て損はしない一本であることは間違いない。

ファイアーアイランド

そうそう、ラストでノアとウィルがいい感じになったように見えるけど、セックス第一主義のノアがウィル一人で満足できるはずもない。ノアがニューヨークの自宅に戻った途端にファイアー・アイランドでかかった”恋愛の魔法”(または”勘違い”)は解けて消え、今夜セックスできる相手をアプリで探し始めると確信している。ノアってそういう奴だから。

(冨田格)

監督:アンドリュー・アーン
脚本:ジョエル・キム・ブースター
出演:ジョエル・キム・ブースター、ボーウェン・ヤン、マーガレット・チョー、コンラッド・リカモラ ほか
2022年/105分/アメリカ
ディズニープラス:https://www.disneyplus.com/ja-jp/home

(C)2022 20th Century Studios.All rights reserved

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