サブスク配信でゲイ映画「天空の結婚式」楽しく歌って踊ればすべて解決……するわきゃねえだろ!

Netflix、Amazon Prime、Disney+、Hulu、U-Nextなど、サブスクリプション配信で映画やドラマを楽しめるプラットフォームは増える一方。

そのおかげで、日本で見られる映画やドラマの数は一挙に増加。そんな配信で見られるコンテンツの中から、ゲイが主役または重要な役割を担う作品を連続紹介する連載コラム。

観光地チヴィタ・ディ・バーニョレージョを舞台に、ゲイカップルの結婚式を描くイタリアのロマコメ映画「天空の結婚式」を解説する。

第十二回「天空の結婚式」

天空の結婚式

2018年のイタリア映画「天空の結婚式」は、U-NEXT、Amazonプライムビデオ、Hulu、Paravi、FODでサブスク配信中。

目次

・この映画を50文字以内で表してみる
・ネタバレほぼなしの作品解説
・物語
・クレジット
・ネタバレありの率直感想

この映画を50文字以内で表してみる

天空の結婚式

脇キャラの「寸劇」ばかりが目立ってしまい、主要キャラの内面を掘り下げることなく物語だけがサクサク進む(50文字)

ネタバレほぼなしの作品解説

天空の結婚式

2016年、イタリアの下院議会で同性カップルの結婚に準ずる権利を認める「シビル・ユニオン」法が可決された。

2018年のイタリア映画「天空の結婚式」は、ニューヨークのオフ・ブロードウェイでロングラン上演された大ヒット舞台「My Big Gay Italian Wedding」を原作に、イタリアのコメディ映画界の重鎮アレッサンドロ・ジェノヴェージ監督が映画化した。

脚本も担当したアレッサンドロ・ジェノヴェージ監督、執筆時点では「シビル・ユニオン」法の可決前であったが、2016年の可決を受けて脚本を修正したそうだ。

舞台となるのは、イタリアのラツィオ州に位置する分離集落「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」。『天空の城ラピュタ』のモデルともいわれ、映画『ホタルノヒカリ』にも登場した崖の上にそびえるイタリア屈指の絶景を誇る「天空の村」。

物語

天空の結婚式

役者を目指してドイツのベルリンで暮らすイタリア人の青年アントニオは、同じく役者を目指すイタリア人の恋人パオロと共に、裕福な女性ベネデッタのマンションでルームシェアしている。

アントニオは、人生を一緒に歩んでいくのはパオロしかいないと確信して、プロポーズする。結婚を決意した2人の前に立ちはだかるのは、お互いの「親」問題。

パオロはゲイであることをカミングアウトして以来、母親と疎遠になっている。一方、アントニオは「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」の村長を務める父と母にはカミングアウトしていない。

復活祭のために「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」に帰省するアントニオは、パオロを連れて帰り親へのカミングアウトと婚約の報告をしようと決める。そして、その帰省の旅にベネデッタと、同居人募集に応募してきた中年男性ドナートも同行することになる。

クレジット

天空の結婚式

監督・脚本:アレッサンドロ・ジェノヴェージ
脚本:ジョヴァンニ・ボニェッティ
出演:ディエゴ・アバタントゥオーノ、モニカ・グェリトーレ、サルヴァトーレ・エスポジト、クリスティアーノ・カッカモ ほか
2018年/90分/ イタリア

天空の結婚式

U-NEXT:https://onl.bz/ZHwer9q
Amazonプライムビデオ:https://onl.bz/6Ej82Gn
Hulu:https://www.hulu.jp/my-big-gay-italian-wedding
Paravi:https://onl.bz/n3jeNXa
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/title/d928/d928120001

【警告】

ここから先は、かなりのネタバレ注意です。

あらかじめご了承ください。

ネタバレありの率直感想

天空の結婚式

カミングアウトと婚約を報告するために帰省してきた息子と同性の婚約者。現実を受け入れて2人の結婚式をプロデュースする母と、息子がゲイであること自体を拒絶する父親。しかし、その街の町長である父親は、過疎化する街をなんとかすべく難民を受け入れる多様化を推し進めようとしていた。

多様化を主張する町長が、息子がゲイであることは受け入れないという皮肉。そこに焦点を絞っていけばなかなか面白くなりそうな物語なのだが、本筋とは無関係な「お笑い要素」が多すぎて、なんとも締まりのない作品になってしまった。

「お笑い要素」を担当するのが、主役2人の家主であるベネデッタと、中年男性のドナート。

ドナートは中年になって女装の悦びに目覚めてしまい、それが妻子にバレて家出をしてきた。ベネデッタは、そんなドナートの容姿が自分の父親に似ていると興味を持つが、女装姿を見て自分の母親に瓜二つだと気づき欲情するという複雑なセクシュアリティの持ち主。

上映時間90分のうち、本筋には関係ないこの2人による「寸劇」が結構な時間を占めており、見ていてイライラさせられる。

ベネデッタとドナートも相当癇に障るキャラなのだが、それに輪をかけて癇に障る存在なのが、アントニオの幼馴染で元恋人の女性カミッラ。一応、カミッラにはアントニオとパオロの結婚に水を差す役割があるとはいうものの、その役割も本当に必要だったのか、疑問になる。

天空の結婚式

というのも、この癇に障る3人に貴重な尺(上映時間)をずいぶん奪われてしまう分、中心となるべきアントニオとパオロ、アントニオの両親、パオロの母の内面がまったく描かれないので、見ている側は誰にも感情移入できないまま、物語だけがサクサクと進行してしまうのだ。

たとえば、アントニオ。

パオロという恋人がいながら、カミッラとの関係にきっちり終止符を打てない理由がまったく描かれない。また拒絶された父親を直接説得しようともせず、すべては母親任せという態度には、パオロとの結婚を真剣に考えているようにも見えない。優しげな外見とは裏腹に、不誠実な男としか思えなくなってくる。

パオロにしても、カミングアウトして拒絶されたからといって母親と没交渉のまま、アントニオと結婚しようとする、どうにも甘っちょろい考えの持ち主。

結婚式に出て欲しいと会いにきたパオロを拒絶する母親だが、なぜだかラストにはニコニコ顔で結婚式に現れる。その心境の変化の理由はまったく描かれない。

息子とその婚約者パオロを受け入れる母は、反対する父親を家から追い出し、結婚式の実現に奔走する。息子の結婚式に対する深い思い入れがあるようだが、その思いを深掘りすることはないので、母親の原動力が何なのかさっぱり見えてこない。

そして、ゲイである息子を拒絶する父親。なぜそこまで拒絶するのか、その理由がまったく描かれないので、単なる偏屈親父にしか見えなくなる。しかも、結婚式前夜に準備がととのった教会に火をつけるという暴挙に走るにも関わらず、息子カップルに助け出されたことで翌日の結婚式をニコニコ顔で取り仕切る。その心境の変化の理由も一切不明。

天空の結婚式

なぜだか結婚式の立会人となったカミッラの暴露によってアントニオの不誠実さを知ったパオロが結婚式から立ち去ろうとするところでアントニオが歌い始め、そこにベネデッタの熱唱が加わり、全員でのダンスシーンが始まる。

「ゲイはミュージカル好きでしょう?」 
「歌って踊ればすべて水に流してハッピーエンドになるよね?」

とでも言わんばかりの演出で、唐突に映画は終わってしまう。観客を置いてきぼりにしたままで。

天空の結婚式

とはいえ、同性カップルの結婚式に拒否感を抱くのは父親だけであり、村民たちは観光の目玉にできそうだと協力するという現代的で好ましい展開もあり。90分の上映時間なので、難しいこと考えなければ楽しめる可能性もなくはない。

パオロと、アントニオの父親は肉厚クマ系なので、クマ好きのゲイにとって眼福映画であることだけは確実だ。

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