新作ゲイ映画『ベネディクション』奔放に男たちと交わる青年が選んだ道とは

第一次世界大戦の頃のイギリスに実在した、兵士であり詩人であったジークフリード・サスーンの奔放な男たちの交流と、女性との結婚を選ばざるをえなかった生き方を描いた新作ゲイ映画『ベネディクション(Benediction)』を紹介する。

平和主義社の戦争詩人

Benediction

イギリスのインディーズ系の映画監督であり脚本家のテレンス・デイヴィスが、実在したゲイの戦争詩人ジークフリード・サスーンを描いた伝記恋愛ドラマ『ベネディクション(Benediction)』は、2022年初夏に英国と米国で公開された。

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第一次世界大戦に従軍したサスーンは、戦場で兄弟を失うも多くの兵士を救い、その勇気によって軍十字章を授与される。しかし、戦争に疑問を抱いたサスーンは、痛烈な反戦の手紙を書き、新聞に発表し、下院で読み上げたことから平和主義者の烙印を押される。

平和主義から回復するためにとサスーンはエジンバラの戦争病院に送り込まれるのだが、そこで運命の詩人ウィルフレッド・オーウェンと出会い、初めてロマンチックな愛の萌芽を感じる。しかし、オーウェンと曖昧なまま別れてしまったことが、その後何十年もサスーンを苦しめることになる。

その後サスーンは、『ダウントン・アビー』と同じ時代のイギリス社交界でさまざまな男たちと交流していくのだが、敬虔なカトリック信者でもあった彼は女性と結婚する道を選択する。

その選択は、サスーンの魂を救済することになったのだろうか。カトリックでは「(聖体)降福式」という意味を持つ『ベネディクション(Benediction)』というタイトルは、なんとも意味深長だ。

自分を好きじゃない男に惚れる性分

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ウィルフレッド・オーウェンとの恋が成就しなかったのちサスーンは、性的な貪欲であり人間としては最悪な男たちを関係を持っては傷つくことを繰り返していった。

テレンス・デイヴィス監督は、同じゲイとしてサスーンの心情をこう分析している。

(サスーンが関係をもった)アイヴォア・ノヴェロはとても残酷でビッチな女王様、スティーブン・テナントは完全なナルシストで無能なお坊ちゃま。二人ともイケメンを求めて肉食系でありながら、ウィットもある。

ゲイの多くはとても面白いのだが、美と若さへの執着からとても残酷でもある。

異性愛者でも同性愛者でも同じだと思うが、ある種の人々は、自分に好意を持たない人を好きになり、好意を持つ人を好きにはならない。これは難しい問題です。

https://www.indiewire.com/2022/06/terence-davies-benediction-interview-1234730326/

『ベネディクション』の魅力的な男たち

主役のサスーンを演じるのは、『ダンケルク』『カポネ』などに出演しているジャック・ロウデン。

ナルシストなお坊ちゃま”スティーブン・テナント”を演じるのは、『ブリジャートン家』『ダンケルク』などに出演しているカラム・リンチ。

男性的な魅力に溢れた残酷なビッチ”アイヴォア・ノヴェロ”を演じるのは、『ストーンウォール』『レッド・ストーン』主演のジェレミー・アーヴァイン。

魅力的な男たちと出会い、ときめき、そして傷つくことの繰り返し。心に残り続けるのは実ることがなかった運命の男。社会的、宗教的な立場から選択せざるを得なかった生き方。

ゲイにとって夢のようなハッピーエンドが訪れる物語ではないが、時代は違っていても現代のゲイ・バイ男性にも共有できる感覚が少なくなさそうな映画『ベネディクション』。日本での公開を期待したい。

※参考記事:Indie Wire/Indie Wire

(冨田格)

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