Netflix「シングル・アゲイン」ゲイの失恋の痛手と再生をリアルに描く

※年末年始にイッキ見したいゲイドラマの記事を再掲するアーカイブ企画。

もしあなたが恋愛市場では全戦全勝。常に自分から相手をフッて、好きなように男を取り替えているような人ならここから読み進める必要はない。でも、もし一度でも彼氏にフラれた経験があり、その時の痛みを知っているのなら、Netflixのオリジナルシリーズ「シングル・アゲイン」は共感できるポイントが見つかるはずだ。

目次
・ゲイたちが作り上げたドラマ「シングル・アゲイン」
・失恋経験のある全てのゲイが共感できる3つの理由
・理不尽な怒りにかられ周囲の人に八つ当たりしがち
・「彼氏の友達は別れても友達なのか?」問題が露呈
・(特に中年以降は)恋愛市場に参入する困難に直面

「シングル・アゲイン」ってこんなドラマ

シングル・アゲイン

7月30日より配信がスタートした、Netflixオリジナルシリーズ「シングル・アゲイン」シーズン1全8話。中年ゲイカップルに突然起きた別離をきっかけに始まる、振られた側の男が失恋後にもがく様を描いたロマコメ・ドラマだ。

物語の主人公は、マンハッタンで成功をおさめた40代の不動産業者マイケル。17年間一緒に暮らしてきた年上のヘッジファンドマネージャーのコリンにいきなり別れを告げられ、完璧だと思っていた生活が足元から崩れ落ちていく。

シングル・アゲイン
マイケル(ニール・パトリック・ハリス)
シングル・アゲイン
コリン(タック・ワトソン)

よく理由も分からないまま、いきなり別離を告げられたマイケルは、戸惑い、怒り、絶望し、そして新たな出会いへ踏み出そうとする。しかし、コリンと生活していた17年の間にゲイの恋愛市場は様変わり。アプリを駆使して、コンドームよりもPrepが常識になった市場変化に狼狽するマイケル。

制作は、『セックス・アンド・ザ・シティ』『エミリー、パリへ行く」のダレン・スター、主演のマイケルはニール・パトリック・ハリス、コリンはタック・ワトキンスと、オープンリーゲイのスタッフ&キャストが中心となって作り上げた中年失恋ラブコメ・ドラマだ。

失恋経験のある全てのゲイが共感できる3つの理由

シングル・アゲイン

自分がハートブレイクな時に、主役が失恋するラブストーリーやロマコメに感情移入してしまったことはないだろうか。とはいえ、ノンケ男やヒロインに感情移入しようとしても、失恋した後に彼らがとる行動には共感できる面が大きいところと、そうでもないところがあるのは仕方のないこと。

ノンケ男女の失恋後の行動パターンや思考と、ゲイ・バイの行動パターンや思考は異なっているのが当たり前なのだから。

しかし「シングル・アゲイン」はゲイ・カップルの物語、フラれた主人公がとる行動パターンや思考はゲイ・バイにとって共感度が高いはずだ。

しかも、若いゲイカップルではなく、17年間同居していた40代と50歳になったばかりの中年カップルという設定が、より失恋の痛手の深さが生まれ、かつ笑いを生み出すポイントにもなっている。

より多くのゲイ・バイが「シングル・アゲイン」に共感できそうな3つの理由を紹介しよう。

理不尽な怒りにかられ周囲の人に八つ当たりしがち

シングル・アゲイン

幸せであることを何も疑っていない時に、いきなり彼から別れを告げられたら。しかも、その理由もはっきり分からないまま。

最初は愕然とし、言葉を喪うが、そのうちに沸沸と理不尽な扱いを受けたことへの怒りが湧いてくる。その怒り、自分の中だけに収めておけるはずもなく、状況を知っている周囲の友人たちにぶつける、ぶつける、またぶつける。

本当は、自分でも「こんなこと繰り返していては良くない」とどこか分かってはいるものの、でも怒りは収まることを知らず、またぶつけてしまう。

ドラマの中のマイケルの怒りも相当根深く、周囲の友人がいい加減げんなりした顔をしているのにも気づかず、怒りをぶつけまくる。

マイケルは不幸のどん底にいる気持ちであることは間違いないのだけど、その反面、ぶちまけ続ける怒りを聞いてくれる友達に恵まれているのは幸せなことでもある。聞いてくれる人がいなければ、自分で怒りをなんとか昇華させるしかないのだから。

「彼氏の友達は別れても友達なのか?」問題が露呈

シングル・アゲイン

2人の付き合いが長くなれば、互いの友達とも仲良くなっていく。つまり、恋人の向こうに広がる交友関係に自分が組み込まれていくし、恋人もまた同じように自分の交友関係に組み込んでいく。

自分では築けなかった人たちとの交友関係ができるのは、とても新鮮だ。自分の世界が一気に拡大したような喜びも感じるだろう。2人の関係が長くなるほどに、互いの友達たちとの交友関係とのつながりも当たり前のように思えてくる。

しかし、2人がカップルで無くなった瞬間に、互いの友達との交友関係が少々ギクシャクし始める。たとえば離婚調停で財産を分けていくかのように、交友関係の整理などできるはずもない。2人を通じてできあがった交友関係が、2人が別れたことで雲散霧消するわけではないのだから。

シングル・アゲイン

いい年した大人のゲイなら、そんなことは十分理解している、はずなのだが、理不尽な怒りに支配されたマイケルは、自分の友達がコリンと口をきくことすら許そうとしない。「君は僕の友達であって、コリンの友達じゃないんだから!」と。

そんな子供のようなマイケルのワガママを、かなりうんざりしながらも受け入れてくれる友達に恵まれているのは、やはりマイケルは幸せ者なのかもしれない。

(特に中年以降は)恋愛市場に参入する困難に直面

シングル・アゲイン

失恋で傷ついた心を癒すことができるのは、新しい男との出会いしかない。コリンとの17年間の関係に、一方的に終止符を打たれてしまったマイケルは、再び恋愛市場に自分を出品することを始める。

しかし、17年間のブランクは予想以上に大きかった。17年前は、ゲイバーやクラブでのリアルな出会いとコンドームによるセーファーセックスが当然だったが、時代は今や「出会いアプリ」と「Prep(プレップ)」が常識。

出会いアプリに初めて登録するも、その場でのマナーや常識を知らないマイケルはただただ戸惑うばかり。また、年下の見栄えのいい男と出会えたとしでも、お互いの常識のギャップが衝突してしまう。

日本でいうなら、40代とZ世代(米国ならミレニアル世代)の間の埋めがたいギャップのようなもの。自分たちが若い頃に年上世代に対して行ってきた(つもり)の配慮を、同じようにZ世代に求めても、それは無理なこと。

そんな戸惑いばかりの状態で恋愛市場に自分を再出品したマイケルの戸惑いと苦悩は、このドラマでもっとも笑えて、かつもっとも共感できるポイントだ。

シングル・アゲイン

「シングル・アゲイン」には、世界中のゲイ・バイ男性が共感できるポイント以外にも、ニューヨークのリッチなゲイたちの生活の一端を覗き見る楽しみもある。夏は「ファイヤー・アイランド」なら、冬は週末3日間の「ゲイ・スキー・ウィークエンド」。

仕事と、友達との交流、ジムやゲイクラブなどのイベント、そんな日常を通じて、マイケルの心の傷もだんだんと癒えていくのだが。

シングル・アゲイン

あっと驚く結末も含めて、見る価値ありの「シングル・アゲイン」。1エピソード30分で全8話、イッキ見したくなること確実なので、時間に余裕がある時に見始める方がよさそうだ。

Netflix『シングル・アゲイン』:https://www.netflix.com/title/81465093

Netflix © 2022

(冨田格)

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