ゲイの歴史的転換期を描く新作映画『フェアリーランド』日本公開を熱望

70年代後半から80年代、エイズによってゲイの世界の様相が一変した大きな転換期のサン・フランシスコ。ゲイの父親と暮らす少女が見たゲイ・コミュニティの実情や社会の変化を記したアリシア・アボットの回顧録『フェアリーランド(Fairyland)』を原作とした新作映画が、2023年サンダンス映画祭で初上映され話題を呼んでいる。

時代の渦に巻き込まれていくゲイの父親

フェアリーランド
『Fairyland』Photo courtesy of Sundance Institute

2023年1月20日、2023年サンダンス映画祭でワールドプレミア上映を行った新作映画『フェアリーランド(Fairyland)』は、脚本・監督を務めたアンドリュー・ダーラム監督のデビュー作。

大学卒業後にラジオ局でプロデューサーをしていたアリシア・アボットが亡き父と、70年代後半から80年代にかけての西海岸のゲイ・コミュニティの状況を描いた回顧録『フェアリーランド』が原作だ。

フェアリーランド
『Fairyland』Photo courtesy of Sundance Institute

母親を交通事故で亡くした直後、アリシアは詩人で活動家の父スティーブ・アボットと共にサン・フランシスコに引っ越してくる。

映画の序盤、雑誌の表紙や新聞の見出しから、カルトの人民寺院ジョーンズタウンの虐殺や著名なゲイの活動家ハーヴェイ・ミルクの死去を知ることで、時は1978年だということが分かる。それからエイズと正式に呼ばれる前の「ゲイの間で流行し始めたひどいガン」についても耳にするようになる。

フェアリーランド
『Fairyland』Photo courtesy of Sundance Institute

1969年のストーンウォールの反乱以降、70年代に一定のパワーを持ち始めたゲイ・コミュニティがエイズの嵐に襲われていく時代に、ゲイのシングル・ファーザーがノンケの少女を育てていく物語が語られていく。

スティーブは、子育てと、愛するパートナーを見つけたいという自分の欲求のバランスをとるのに苦労していく。複数の男と出会い恋愛関係になっていくも、アリシアと共に家族になれる相手を見つけるのは容易いことではない。

フェアリーランド
『Fairyland』Photo courtesy of Sundance Institute

そしてスティーブもいつしかエイズの病魔に取り憑かれていく。

個性的なキャストが彩る物語

フェアリーランド
『Fairyland』Photo courtesy of Sundance Institute

スティーブを演じるスクート・マクネイリーは2000年代初頭から俳優としての活動を始め『ワンダーランド』『アルゴ』『プロミスト・ランド』『フライト・ゲーム』『カモン カモン』などさまざまな映画でバイプレイヤーとしての存在感を示す。

Netflixの『ナルコス:ブラジル編』ではシーズン2の、HBOの『TRUE DETECTIVE/迷宮捜査』ではシーズン3の、それぞれメインキャストとして出演した。

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当時、欧米のゲイの間で流行したレザーのハードゲイ・スタイルをスティーブと共に身につける恋人チャーリーは、カミングアウトしている歌手のアダム・ランバートが演じる。

娘のアリシアが求めているのはスティーブの恋人の男ではなく母親だと察して身を引く恋人エディは、オーストラリア出身の俳優コーディ・ファーンが演じる。

主役である娘のアリシアは『コーダ あいのうた』のエミリア・ジョーンズが演じる。『テルマ&ルイーズ』のジーナ・ディヴィスも主要な役で出演している。

10代の頃のアリシアは、スティーブがゲイになったのは交通事故で母を亡くしたことが原因だと思い込んでおり、結婚前からスティーブが自分はゲイだと自覚していたことを理解できず葛藤する過程も描かれるという。

エイズというゲイ・コミュニティにとって大きな社会的な問題と、ゲイの父親を持つ娘の葛藤や自分の幸せと娘の幸せを両立させようともがくシングル・ファーザーの”ゲイと家族”というプライベートな問題を両立させたストーリーは、共感できるポイントが多そうだ。

『フェアリーランド』が日本でも公開されることを期待したい。

※参考記事:UPI

(冨田格)

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