都会に逃げてきたゲイの青年が直面する過酷な現実・豪ゲイ映画『ロンサム』

クリス・ヘムスワース、ヒュー・ジャックマン、メル・ギブソン。オーストラリア出身俳優は、独特の男臭い雰囲気を持っている。マッチョで男らしいことが求められるオーストラリアのゲイ映画にも、その傾向が濃厚。オーストラリアの新作ゲイ映画『ロンサム』もまた、そんなテイストの一本だ。

『真夜中のカーボーイ』へのオマージュ

ロンサム
映画『ロンサム(LONESOME)』

ニューヨークで「ストーンウォールの反乱」が起きた1969年に公開された映画『真夜中のカーボーイ』は、アメリカン・ニューシネマを代表する一本として高い評価を受けている。

成功を夢見てテキサスからニューヨークに出てきたカーボーイ・スタイルの朴訥でマッチョな青年が、富と名声を求めて体を売っていくのだが、現実はそう甘くない。男相手に体を売るエピソードがあり、さらに売春斡旋の相棒となる病弱な男との関係性にゲイ的な濃度が高く、ゲイ映画の系譜に挙げられる作品でもある。

ロンサム
映画『真夜中のカーボーイ』

オーストラリアの新作ゲイ映画『ロンサム(LONESOME)』は、『真夜中のカーボーイ』リスペクトが感じられる作品のようだ。

映画『ロンサム(LONESOME)』の物語

ロンサム
『ロンサム(LONESOME)』

オーストラリアの田舎の牧場で育った青年ケイシー(ジョシュ・ラベリー)は、ゲイだとカミングアウトしたが父親にも周囲ににも拒絶され傷つき、大都会のシドニーに逃げてくる。

『真夜中のカーボーイ』のジョン・ボイトを彷彿とさせるカーボーイ・ハットを被り朴訥なマッチョのケイシーは、都会のゲイにすればご馳走のような存在。年上のレザー・ダディであるピエトロ(イアン・ロバーツ)はケイシーに売春の仕事を斡旋する。

ロンサム
『ロンサム(LONESOME)』

仕事で体を売るケイシーは都会の闇に落ちていき、カジュアルなセックスにも耽溺していく。そんな相手の一人であるティブ(ダニエル・ガブリエル)とは、次第に感情的でロマンチックなつながりを深めていくのだが。

過激な性描写と魅力的なキャストたち

ロンサム
『ロンサム(LONESOME)』

脚本・監督のクレイグ・ボレアムは、社会から疎外されたセクシュアリティと欲望の政治の問題を探求する短編映画を作り続けてきた。

2016年に、オーストラリアに移民してきた家族、そしてゲイの息子の同性に対する10代の葛藤を描いた『ティーンエイジ・キックス(Teenage Kicks)』で長編デビュー。『ロンサム(LONESOME)』が2本目の長編映画となる。

今作の特徴は、都会のゲイの爛れた性的事情を直球で描いていることだという。上映時間94分の間に、ハードからフェティッシュなものまで、さまざまな性的場面が詰め込まれている。その過激さと相反するように、ケイシーとティブの間に生まれる感情の化学変化が際立ってくるようだ。

監督は、ゲイの出会いやカジュアルなセックスに加え、退屈・抑えられぬ欲情・激しい孤独などから常に新たな出会いに駆り立てられる都会のゲイの青年の欲望を実感している俳優を求め、リアルなゲイの俳優をキャスティングした。

ケイシーを演じるジョシュ・ラベリーと、ティブを演じるダニエル・ガブリエルのインスタグラムを見ると、クィアなテイストを取り入れることを楽しむまさに現代の都会のゲイ青年だということがうかがえる。

都会の闇を体現するようなピエトロ役は、カミングアウトした元ラグビー選手でゲイの活動家であるイアン・ロバーツが演じている。

万人受けするようなロマンティックな映画ではないようだが、ゲイには共感できるポイントが多そうな映画『ロンサム(LONESOME)』、日本でも見られるようになってほしい。

※参考記事:The Gurdian

Amazonプライム『真夜中のカーボーイ』

(冨田格)

★あわせて読みたい!
「男同士の愛を描く映画を見たい!」日本公開熱望する7本の新作ゲイ映画

コメントを残す