山田太一『異人たちとの夏』ゲイ映画版リメイクが大傑作だと早くも話題沸騰
公開を前に映画祭で上映されるや、批評家たちから絶賛のコメントが相次ぎ、映画批評サイト『ロッテン・トマト』で最高点である「100%フレッシュ」となっているのが、かつて日本で映画化もされた山田太一の小説『異人たちとの夏』をゲイ男性を主役にリメイクした新作映画『オール・オブ・ストレンジャーズ(原題)』だ。
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映画『異人たちとの夏』とは
1987年に山田太一が発表した小説を、市川森一が脚本化して大林宣彦が監督するという、昭和の最後に実現した日本映画界の歴史に遺る作品が『異人たちとの夏』だ。
『異人たちとの夏』は、ある夏に中年男性が遭遇した奇妙な物語。
映画では風間杜夫が演じる主人公の脚本家が、同じマンションに住む謎の女性ケイ(名取裕子)と知り合ったことをきっかけに、ふと、子供の頃に亡くなった両親(片岡鶴太郎・秋吉久美子)と暮らしていた街・浅草を訪ねる。
するとそこは時が止まったように、亡くなった当時のまま、つまり今の主人公と同年代の両親が生活していた。あまりにも奇妙な出来事にも関わらず、両親に甘えることが嬉しくて主人公が浅草に足繁く通うようになる。
同時にケイとも深い仲になっていくのだが、いつしか男の体は衰弱し始めていた。
両親が住む懐かしい昭和中期の下町・浅草の風景と、バブルが始まる頃の東京都心の街という全く異なる2つの背景を舞台に進行する物語は、両親と再会するという心温まる面と、謎の女性との関わりや男の体に生じる異変という不穏な面が融合した、ある種独特な印象を与えてくれる。
リメイク版のスタッフとキャスト
『異人たちとの夏』の舞台を英国ロンドンに、そして主人公をゲイ男性に置き換えたリメイク作品が『オール・オブ・ストレンジャーズ(原題:All of Us Strangers)』だ。
米国のサーチライト・ピクチャーズと、英国のフィルム4、ブループリント・ピクチャーズが制作するリメイク版は、ゲイの友情や恋愛を描いたドラマシリーズ『ルッキング/Looking』や、各国の映画祭で話題となったゲイ映画『ウィークエンド/Weekend』の監督・製作・脚本を手がけたアンドリュー・ヘイが監督・脚本を担当。
主役のゲイ男性・アダムを演じるのは、2013年にカミングアウトした英国人俳優のアンドリュー・スコット。ベネディクト・カンバーバッジ主演のドラマ『SHERLOCK/シャーロック』のモリアーティ役をはじめ、『ルッキング/Looking』『フリーバッグ』や映画『007 スペクター』『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』『1917 命をかけた伝令』など話題作に出演している。
アダムと同じマンションに住む謎の男ハリーは、ポール・メスカルが演じている。アイルランド出身のメスカルは2020年のドラマ『ノーマル・ピープル』でブレイク。現在日本でロングラン上映中の映画『aftersun/アフターサン』で第95回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた注目の俳優だ。
アダムの母を演じるクレア・フォイは、Netflix『ザ・クラウン』でエリザベス2世の若年期を演じて話題を集めた。アダムの父を演じるジェイミー・ベルは2000年の映画『リトル・ダンサー』の主役に抜擢され、以降様々な作品で活躍している。
ロンドンが舞台のリメイク版の物語
『オール・オブ・ストレンジャーズ(原題)』の物語を紹介する。
うつ病の初期段階にある脚本家アダムは、12歳のときに交通事故で亡くなった両親との関係に着想を得て執筆しようとしている脚本が進まず苦闘していた。午後のテレビを見たり、ビスケットを食べたり、子供のころの古い写真を見たり、当時の音楽(フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの『パワー・オブ・ラヴ(愛の救世主)』)をターンテーブルにかけたりする。
ロンドンの近代的な高層ビルのアパートで一人暮らしをしているアダムは、奇妙なことにそのアパートに住むのは自分だけだと思い込んでいた。ところが、もう一人の男が住んでいることに気が付く。その男ハリーは、アダムと同じく孤独で、しかしアダムと違って酒好きだ。ハリーは酒の勢いをかりてアダムに接近してくる。
2人の男たちの関係が軌道に乗り始めた頃、アダムは気まぐれで、自分が育ったクロイドン近郊の古い町並みを見に行く。
ところがそこには亡くなった当時の年齢のママとパパが、80年代半ばと同じように装飾され家具が置かれた古い家に住んでいた。両親は、まるでアダムが大学の寮から洗濯物を抱えて帰ってきたかのような態度で、温和で軽妙、そして気楽な歓迎で迎える。
これはアダムが回想しているのではなく、両親が亡くなったときの年齢とほぼ同じになった彼が、自分の人生やゲイであること、新たな男性と交際寸前であることについて、大人として両親と話すという奇跡の現実だ。
両親は、彼がゲイであることに腹を立てるでも、感心するでも、驚きを隠して平然を装おうでもなく、当たり前のこととして受け入れる。父親にとってはそんなことよりも、アダムがキャッチボールが苦手だったことの方が重大な問題と考えているようだ。
母親は、アダムが選んだ「孤独」あるいは「子供のいない生き方」について眉をひそめて心配するが、それは母親の感覚が亡くなった当時の社会の規範のままであることから生じている。
失われた子供時代に戻ることが居心地良く、アダムは両親の家を頻繁に訪れるようになるのだが。
批評家から絶賛レビューが続々
12月22日より全米公開が予定されている『オール・オブ・ストレンジャーズ(原題)』だが、8月31日よりコロラド州で開催された『テルライド映画祭』でワールド・プレミア上映が行われた。
そこで鑑賞した批評家たちが絶賛して、映画批評サイト『ロッテン・トマト』で最高点である「100%フレッシュ」となっている。
批評のコメントの一部をピックアップする。
「アンドリュー・ヘイ監督は新たな高みに到達し、まったくもって深く美しいものを作り上げた。人生において築かれるつながりと、それを様々な形で手放し、前進していく必然性を、親密かつ繊細に探求している」(マーク・ジョンソン)
「崇高な傑作。悲しみと愛についての考察であるヘイ監督の痛切で控えめなゴースト・ストーリーは、今年最高の映画のひとつである」(トムリス・ラフリー)
「アンドリュー・ヘイが、ファンタジーでありながら魅力的で地に足の着いた、カテゴリー分けの難しいドラマで驚かせた。エース級の演技の数々」(マット・メイタム)
「この映画は観客のためのセラピーだ。少なくとも父親から『お前が泣いているときに部屋に入らなくて悪かった』と言われることを切実に望んでいる私たちの特定の層のためのセラピーであることは間違いない」(ピーター・デブルージュ)
「ゴースト・ストーリーだが、ラブストーリーでもある。あなたの心を打ち砕くだろう」(ハンナ・ストロング)
ジオ倶楽部では今後も『オール・オブ・ストレンジャーズ(原題)』の最新情報を伝えていく予定だ。
※参考記事:Rotten Tomatoes/The Guardian
(冨田格)
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