ゲイ(バイ)男性必読!海外の実例から考える「サル痘」とゲイコミュニティ
欧米でゲイ(バイ)男性の間で感染が広がりつつある「サル痘」。日本ではまだ感染の報告はないものの、気になる人は少なくないようで「サル痘」関連の記事は反響が大きい。
よく分からない感染症だと思えばいたずらに不安ばかりが大きくなっていくものだから、どんな感染症なのかを具体的に知っておくことが重要だ。
今回は海外の報道から、「サル痘」がどうやってゲイの間で広まっているのかという実態と、ゲイコミュニティで懸念されていることを紹介しよう。
「サル痘」の基礎知識
まず大前提だが、「サル痘」はゲイ特有の病気ではなく、誰でも感染する可能性がある。しかし、現状は欧米のゲイのネットワークで感染が広がり始めている。
現時点で世界保健機構(WHO)が伝える「サル痘」の基本的な情報をまとめる。
まず、「サル痘」の症状はこちら。
・発熱
・リンパ節の腫れ
・頭痛
・筋肉痛
・元気のなさ
・顔、手、足、目、口、性器に水疱を伴う発疹ができる
・口の中に潰瘍、病変、ただれができる発疹は通常、発熱から1~3日以内に始まる
https://www.who.int/news/item/25-05-2022-monkeypox–public-health-advice-for-gay–bisexual-and-other-men-who-have-sex-with-men
「サル痘」のヒトからヒトへの感染経路はこちら。
・症状が現れている人と密接に身体的接触をすると、サル痘に感染する可能性がある。これには、触ったり、顔を合わせたりすることが含まれる。
・キス、タッチ、オーラル、挿入など、性行為中の密接な皮膚と皮膚の接触で広がる可能性がある。口の中の潰瘍、病変、ただれなども感染する可能性があり、唾液を介してウイルスが拡散する可能性がある。
・発疹、体液(皮膚病変部の体液、膿、血液など)、かさぶたは特に感染力が強い。
・感染者が接触した衣服、寝具、食器なども、他の人に感染させる可能性がある。
https://www.who.int/news/item/25-05-2022-monkeypox–public-health-advice-for-gay–bisexual-and-other-men-who-have-sex-with-men
「サル痘」を発症した場合、症状は通常2~4週間続き、治療しなくても自然に治る。しかし、人によっては合併症を引き起こし、まれに死に至ることもある。基礎的な免疫不全のある人は、より重篤な症状を引き起こす危険性がある。
以上が、WHOが発表している基本情報だ。
世界保健機構(WHO)がゲイ・バイ男性に向けて「サル痘」に関するアドバイスを発表
欧米のゲイコミュニティでの感染の現状
■5月21日、スペインの英語ニュース「THE LOCAL es」がこう報じた。
マドリッドの中心部にある「楽園」を意味する名前のゲイフレンドリーな施設、”パライソサウナ”は今後数日間、マドリッド地方でサル痘の感染が確認されたため、予防的措置として閉鎖される 、とツイッターで発表した。(中略)エンリケ・ルイズ・エスクデロ氏(マドリッド州保健局)は、21人の確定患者と19人の疑い患者を記録したと記者団に語った。「陽性と判定されたほとんどの人は、この感染源と関係がある」と、彼はサウナのことを指して言った。
https://www.thelocal.es/20220521/spanish-monkeypox-outbreak-linked-to-sauna/
この「サウナパライソ」はマドリッドで最も古いゲイサウナであり、地下プール、フィンランド式サウナ、トルコ式バス、スチームルーム、30のプライベートキャビン、ダークゾーン、ブランコがあるエリアなどがある広い施設で、非常に人気があるとのこと。
■5月23日、ニューズウィーク日本版がこう報じた。
ベルギー北部のアントワープで5月4日~9日に開催された「ダークランド・フェスティバル(Darkland Festival 2022)」の参加者のうち3名が「サル痘」に感染したことを発表したのを受けて、イベント主催者は、参加者に対してサル痘感染の可能性について注意を呼びかけた。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/05/3-324.php
この「ダークランド・フェスティバル(Darkland Festival 2022)」は、ゲイの中でもレザーに特化したフェティッシュ色の強いイベントだ。公式サイトを確認したが、さまざまなイベントが用意されいるが、夜のパーティーを含め、かなりアクティブに性的な交流が行われていたものと思われる。
■5月27日、AP通信がこう報じた。
スペイン保健当局は、今月初めに8万人を集めたカナリア諸島のゲイ・プライド・イベントとマドリッドのサウナとの関連性を中心に調査してきた。(中略)木曜日の時点で、イタリアでは10人のサル痘患者が確認されているが、そのうちの何人かはスペインのカナリア諸島に旅行した人たちである。
https://apnews.com/article/covid-health-spain-madrid-8763ccfd170d38ce5ee96d44038881bf
カナリア諸島のゲイ・プライド・イベントは、5月5日~15日に開催の「Gay Pride Maspalomas (Gran Canaria) 2022」だ。プライドパレードをはじめ、パーティーやビーチでのアクティビティなどさまざまなイベントが開催された。
サル痘の感染経路に関して、国立感染症研究所のサイトにはこう記載されている。
サル痘ウイルスの動物からヒトへの感染経路は、感染動物に咬まれること、あるいは感染動物の血液・体液・皮膚病変(発疹部位)との接触による感染が確認されている。自然界ではげっ歯類が宿主と考えられているが、自然界におけるサイクルは現時点では不明である。
ヒトからヒトへの感染は稀であるが、濃厚接触者の感染や、リネン類を介した医療従事者の感染の報告があり(Aaron TF. 2005, Aisling V. 2020)、患者の飛沫・体液・皮膚病変(発疹部位)を介した飛沫感染や接触感染があると考えられている。(令和4年5月20日改定)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.html
本来、ヒトからヒトへの感染は稀であると考えられていた「サル痘」だが、詳細は現時点では不明だが、多くのゲイが集まる大規模イベントや、性的交流によって広がっていると考えられているようだ。
致命的じゃないが発症すると厄介な「サル痘」性に開放的なゲイは最新情報を抑えておきたい
ゲイコミュニティの懸念
5月28日、米「The Atlantic」で、ゲイ当事者であり感染症の歴史を研究しているゲティスバーグ大学の歴史学教授であるジム・ダウンズ氏が、「サル痘」に関する懸念を表明している。
政府当局は、アメリカのエイズ危機の真っ只中にひどいスティグマに耐えたグループを特別視しないよう懸命に努力している。
「経験上、汚名を着せるようなレトリックは、恐怖の連鎖をあおり、人々を医療サービスから遠ざけ、症例を特定する努力を妨げ、効果のない懲罰的措置を促すことによって、根拠に基づく対応をたちまち無力化する」と、国連合同エイズ計画のマシュー・カヴァナー副所長は最近述べた。
HIVの発生後、長年にわたって、批判されたり恥をかかされたりすることへの恐怖が、一部のゲイ男性の検査を思いとどまらせてきたのだ。
https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2022/05/monkeypox-outbreak-spread-gay-bisexual-men/643122/
という「サル痘」に関する米国の報道スタンスに、ダウンズ氏は疑問を投げかける。
ゲイ男性だけが危険なわけではない。しかし、今現在、この症状が自分たちのコミュニティの中で最も活発に広まっていることを知る必要がある。
ここ数日、CDCの職員はこのことを率直に認めている。ロッシェル・ウォレンスキー局長は木曜日、今週半ばまでに米国内で確認された9件のサル痘患者のうち、ほとんどが男性と性交渉を持つ男性の間であると指摘した。
しかし、他の多くの善意の職員は、同性愛者差別的なことを言うのを恐れているようで、報道機関は、サル痘は「ゲイの病気ではない」ことを強調する記事を掲載している。しかし、保健機関は、啓発キャンペーン、ワクチン、検査などの介入を優先させなければ、ゲイ男性を危険にさらしていることになる。
(中略)私は、医師がウイルスの病態生理を知らない可能性がある地域のゲイ男性について懸念している。
https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2022/05/monkeypox-outbreak-spread-gay-bisexual-men/643122/
ダウンズ氏は、1980年代~90年代にかけて、HIV/AIDSに関する正しい情報、たとえば「キスでは感染しない」とか、セーファーセックスの重要性などを、より多くの人に周知できるよう広めていったことは有益だったと評価している。
同じく「サル痘」に関しても、ウイルスがどのように感染し、どのように回避するかについて信頼できる情報を発信することは、公衆衛生を守るために不可欠だと考えている。
HIV/AIDSの初期、まだその実態が不明だった時期に「ゲイ特有の病気」という間違った認識が広まりゲイがバッシングされたように、「サル痘」でも同じ状況になることを恐れるあまり、情報の発信に配慮がありすぎると、逆にゲイの中でも情報弱者のグループが危険だと懸念している。
たしかに「サル痘」は世界的にもまだ症例が少ないので、もし日本で感染が広がりはじめたとしても、感染した本人にも、またその人のかかりつけのクリニックの医師にも「サル痘」の知識がなければ、正しい対処をすることができないだろうと予想できる。だからこそ、一人でも多くのゲイ(バイ)男性が「サル痘」に関する正しい情報を知るべきだと考える。
「サル痘」は誰もが感染する可能性があり、ゲイ特有の病気ではないのだが、現在はゲイ(バイ)男性の間で広まりはじめているという事実を踏まえて、ジオ倶楽部ではこれからも継続して「サル痘」の情報を発信していく予定だ。
(冨田格)
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