ゲイが見る映画『ヘルドッグス』岡田准一の汚れと坂口健太郎の狂気が素敵
正義も感情も捨てた究極のダークヒーローを岡田准一が演じる映画『ヘルドッグス』。現在公開中のこの作品、ゲイ視点から見るとさらに楽しめるポイントを解説する。
最強で最凶なバディが組織内をのしあがる
「関ヶ原」「燃えよ剣」に続き、原田眞人監督と岡田准一が3度目のタッグで作り上げた映画『ヘルドッグス』。
関東最大のヤクザ組織へ潜入することになる闇落ちした元警官・兼高(岡田准一)は、兼高が潜入捜査をしているとは知らない組織一のサイコな青年殺し屋・室岡とバディを組む。兼高のミッションは、組織の若きトップ・十朱(MIYAVI)が持つ“秘密ファイル”の奪取だ。
兼高と室岡は、殺し屋として着実に実績を上げながら、猛スピードで組織を上りつめていくのだが、ひょんなことから兼高の素性を知る人物が現れて、物語は予測不能な結末に向かい転がり落ちていく。
北村一輝、松岡茉優、金田哲、村上淳、吉原光夫、大竹しのぶ、など一クセも二クセもありそうなキャストが揃った、ダークヒーロー映画。物語もアクションも、役者たちの熱量も演出も満足度の高い仕上がりなのだが、ゲイ視点で見るとこの映画をさらに美味しく楽しめるポイントを解説する。
<警告>
ここから先は、かなりのネタバレ注意です。ネタバレが気になる方はご注意を。
岡田准一の堂に入った汚れっぷり
アイドル出身の俳優が「汚れ」を演じるのは、日本ではとても難しい。「汚れ」っぽい雰囲気を出そうとしても、どこか仮装風というか、コスプレ的というか、心底「汚れ」ているように見せることができないのだ。
たとえば2008年の映画『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』で、松本潤が小汚い衣装で山の民を演じても、作り物っぽくて”実際は汚れていない”感がたっぷり。松潤ファンが安心して楽しめる範囲での”汚れ”っぽさでしかなかった。
たとえば2016年の映画『SCOOP!』では、福山雅治が風呂に何日も入ってないような清潔感に欠ける中年パパラッチを熱演。酔ってリリー・フランキーとチューしたり、いい感じで汚い中年男を表現していたのだが、二階堂ふみとのラブシーンになると途端に強烈な照明を当てた真っ白なシーツの上で中年男とは思えないツヤツヤ肌の裸体を披露する始末。そこまで必死に汚い中年男を演じてきた努力が水泡と化してしまった。
ところが『ヘルドッグス』の岡田准一は、見事に汚れているのである。特に潜入操作をする前の闇落ちしている間は、確実に風呂に入ってなさそうな、見るだけで匂ってきそうな見事な汚れっぷり。ガタイがよくて、イケメンがしっかり汚れている様を見るだけでも、ヨゴレ専の満足度が高いのは確実だ。
回想シーンで出てくる警察官時代は髭を剃ったきちんとした身なり、闇落ち中のボサボサ髭、組織に潜入後の整えた髭面、と髭のあるなしで3パターンの岡田准一が登場するので、髭好きも髭嫌いも楽しめるはず。
ゲイ的に惜しいのは、タンクトップ以上の肌の露出がないこと。そこに物足りなさを感じる人は、岡田准一主演の映画『ファブル』を見て補ってほしい。こちらでは性的な場面ではない全裸シーンを堪能できるので。
坂口健太郎のそそる逝っちゃった演技
感情を表に出さない静かな兼高に対して、バディを組む室岡は危ない雰囲気が全開。一見、大人しく普通に見える場面でも、眼光にただならぬ雰囲気が宿っていて、ぞくぞくする。
警察の調べで兼高と兼高の相性が98%ということで、室岡に接近してバディとなることで組織への潜入を試みるという設定通りに、室岡の兼高への懐きっぷりにもただならぬ雰囲気が充満している。
兼高も、室岡も、それぞれ女性との絡みがあり、一応どちらも”ノンケ”設定にはなっているのだが、室岡の性的指向はもっと複雑だ。
組織の同僚の三神を殺害する際にキスをする場面は、イタリアのマフィアの粛清のサインである「死の接吻」を模したものとして描かれるが、室岡が三神に対して逆上したのは兼高と離されてしまったことの寂しさからきたものとしか考えられない。
最後の最後で、兼高に愛の告白をした瞬間、兼高の銃で頭をぶち抜かれるのは悲劇のようでもあり、室岡の想いが成就したある種のハッピーエンドのようでもある。その直後、兼高と室岡が出会い、室岡が恋に落ちる瞬間の回想場面が描かれるので、室岡の片想いの切なさがより一層伝わってくる。
岡田准一と坂口健太郎以外にも、熊さんと呼ばれる髭面巨漢の吉原光夫はクマ専の心を射抜くこと確実だし、総身掘りの北村一輝のパンツ一丁場面は刺青専の下半身を直撃するはず。ゲイ的に見逃せないポイントが多数ある『ヘルドッグス』は、ぜひ劇場で楽しんで欲しい。
『ヘルドッグス』
監督・脚本:原田眞人
原作:深町秋生
出演:岡田准一、坂口健太郎、松岡茉優、MIYABI、吉原光夫、北村一輝、大竹しのぶ ほか
2022年/138分/日本
配給:東映、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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(冨田格)