【再掲】知っておくべき現実・HIV陽性者の老人ホーム入居が現状難しい
※2021年11月にスタートした「ジオ倶楽部」1周年を記念して、この1年間公開した記事の中から今読むべき記事を再掲載する。
「U=U(ユーイコールユー)」という言葉をご存知だろうか。
HIV陽性の人がきちんと薬を服用して、血中のウィルス量が検出限界値未満を持続すれば、人に感染させることは一切ない。この科学的に根拠づけられた事実を、わかりやく伝えるメッセージが「U=U」だ。
医学の進歩によってHIV/AIDSは死に至る病ではなくなったことは素晴らしいのだが、老後に関しては大きな問題が待ち受けている可能性があるという。
目次
HIV陽性の高齢者が直面する問題
検査をしてHIV陽性だと分かったら病院に行き診察を受け、処方してもらった薬をきちんと服用し続ければ、血中のウィルス量をコントロールして検出限界未満に抑え込む。
昭和末期から平成を通じて、医学の進歩を驚くべき速さでHIVを投薬することでコントロールできる病気へと変えていった。
「U=U」がゲイの中では徐々に浸透してきたことで、「ポジティブでもU=Uだから問題ない」「死なない病気だから大丈夫」と、あまり深刻に考えない人も見受けられるようになった。
しかし、老後になると話は違ってくる。老人ホームなどの高齢者施設に入所しようとする時点で、HIV陽性であることがネックになる現状があるそうだ。
ゲイやバイセクシュアル男性の老後支援(身元保証代行など)を行うアライアンサーズの久保氏に、その実情を聞いてみた。
高齢者施設への入所を拒否される
ジオ倶楽部(以後「ジ」):アライアンサーズが主催する「友活勉強会」で、久保さんは「老人ホーム入居時にHIV陽性の場合、拒否されることが未だに多い」と話していましたが、現状はいかがでしょうか?
久保(以後「久」):地域差もあると感じますが、日本全国でいうと、HIV陽性者の有料老人ホームや特別養護老人ホームへの受入は相対的に厳しいです。
ジ:その理由は何故でしょうか?
久:HIVの知識が介護事業者には徐々に広がっていますが、現場の職員までは広がっていないことや、現場職員へ施設責任者が教育をする手間などを嫌がる事業者がいることは事実です。
ジ:「U=U」で人に感染させることがないとしても、そこを現場の人々に理解してもらうのは難しいということですか。
久:そう思います。HIVやエイズパニックがあったころから数十年経ったにもかかわらず、現状は芳しくない状況です。
ジ:実際に老人ホーム紹介サイトを見ると、HIV陽性の方の受入をしている施設は決して多くないですね。
久:実はそれも見せかけのデータではないかと考えています。「HIV陽性者を受け入れない」と書くと、該当する老人ホームのイメージダウンにも繋がりかねません。そのため、「応相談」あるいは「△」と記載されている施設があります。
ジ:実際には入居出来ないということですか?
久:はい。当社アライアンサーズの協力会社(有料老人ホーム紹介会社では日本有数の規模)の役員ともよく話しますが、実際の受入は厳しいところだらけです。少なくとも2022年現在はHIV陽性者の老人ホーム入居は条件がかなり厳しいとお考えいただきたいです。
ジ:他にも拒否される要因はあるでしょうか?
久:数年単位に実行される介護制度の見直しもあって、介護施設現場の資金力が落ちてきています。その証拠に2020年前後から、高齢者施設を所有する事業者がM&Aなどで売却あるいは、廃止する勢いが加速しています。昨年とある大手介護事業者がアジア資本の法人に売却したケースが典型です。
ジ:つまり、現状のマニュアル以外にHIV陽性の人の対応を実施する体力のある介護事業者が減っているということですか?
久:その影響は否定出来ないと思います。高齢者の人数が多いので、介護事業者側に主導権がある、つまり入所者を選べる状態にあると考えている会社も見てきました。
HIV陽性の高齢者が長く在宅で過ごせるために
ジ:久保さんが考えている施策はありますか?
久:はい。ゲイが運営する訪問看護ステーションを重点地域である横浜や東京などを中心に今後増やしていきます。「シエロ」というサービスでゲイ看護師の皆様に訪問看護ステーションを経営して頂き、異性愛者の方だけでなく、高齢ゲイの皆様が在宅で生活出来るように支援して頂くように進めています。
ジ:HIV陽性の方にも理解のあるゲイの看護師さんならではのプロジェクトですね。
久:そうです。高齢者施設への入所が困難な現状を考えると、HIV陽性の高齢者がなるべく長く在宅で過ごせる状況を作る必要があります。HIVや「U=U」に関する理解のあるゲイの看護師や理学療法士の皆様のお力添えがあれば実現できるプロジェクトだと考えています。
ジ:HIV陽性の高齢者にとっても、理解してくれる人が来てくれる安心感はありますね。
久:はい。精神的な支えになれることは、とても大切です。また、首都圏の有料老人ホームの月額利用料平均15~35万円と、かなり高額です。在宅ならば遥かにリーズナブルなので、費用的にも安心できるという面があります。
ジ:なるほど、その点はHIV陽性の人に限らず、多くの人にとって有益ですね。
久:弊社が進めている「ゲイの老後は横浜で」プロジェクトは、23区内よりも家賃の安いエリアに住み替えすることで、月々の生活費を抑えるという考えから始まっています。そこにゲイ看護師による訪問看護ステーションが実現すれば、より安心して住み続けられる環境づくりができると考えています。
老後への準備を始めるなら50代から
ジ:現状を知ったことで老後の不安が大きくなった、HIV陽性の人もいると思います。そういう人たちは、なにかできることがあるでしょうか?
久:当社アライアンサーズのサービスを利用するとならば、まずは月額5千円(税抜)の見守り契約からスタートして、それぞれの状況に応じた実現可能な老後の準備をすることをお勧めします。その先には任意後見契約と死後事務委任契約を結び、老人ホームや病院へ入院出来る体制を早目につくることが大切です。
ジ:その準備は何歳ごろから始めることが理想でしょうか?
久:あくまで一般的には50歳以降の方です。ただし、認知症症状などが既に出始めている場合などはお受け出来ないケースもありますので自己判断は避けて頂いた方が良いと思います。「もしもの時が来た時に、準備があればOKです」しかし「もしもの時に準備が出来ていない場合」はご希望に添えない可能性があるということを、ご理解頂くことが大切です。当方もご支援するには事前に周到な準備が必要です。
リスクを知った上で対策を考える必要性
HIV陽性の場合、高齢者施設に入所するのがどれくらい困難なのか、実際に調べてみた。
某老人ホーム紹介サイトで、西日本のある県で、サービス付き高齢者向け住宅(相談員常駐の高齢者住宅・サ高住)でHIV陽性者の受入可能件数を検索したところ、3件しかヒットしなかった。いずれも「応相談」という記載があるので、実際に入所できるのかは不明だ。
またHIV陽性の場合、認知症やガンのリスクが高いという問題も生じている(※文末に参考リンクあり)。たとえエイズを発症しなくとも、HIV陽性の50代以降の独身ゲイ・バイ男性は、入院や治療の問題も大きいことは理解しておくべきだろう。
「U=U」の理解が高齢者施設で働く人にも浸透して、HIV陽性でも入所可能な施設が増えていくことを期待したいが、時間はかなりかかると思われる。
もし陽性であることが分かれば、早急に医療にアクセスすることができる。また、定期的に検査を受けて陰性であり続けたら、それはセーファーセックスへの意識を持続することにつながっていく。
多くの独身ゲイ・バイ男性は理想とすることは、施設に入所することなくなるべく長く自立した生活をすることだと思う。そのためには、健康でい続けることが必要だ。セーファーセックスを続けることも、老後のためには重要な要素であると認識してほしい。
■HIV陽性者の老後対策まとめ
・HIV陽性の場合、認知症やガンのリスクが高い。
・高齢者施設への入所は現状ではかなり難しい。
・定期的なHIV検査と、セーファーセックスを続けることが必要。
・入院時や老人ホーム入居時に必要な身元保証人・身元引受人の確保。
・長期プラン計画を専門家と一緒に作成をし、体調急変後の対策をする。
アライアンサーズ
所在地:東京都新宿区新宿2-12-13
電話:03-6260-8637
問い合わせ:https://alliancersjp.com/contact/
※HIV検査などの情報サイト
HIVマップ:https://hiv-map.net/
※参考サイト
HIVとがんのリスク:https://www.treatyourself.jp/knowledge/body-risks/cancer/
HIV関連神経認知障害:https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2411-related-articles/related-articles-451/7525-451r04.html