サブスク配信でゲイ映画「シングル・オール・ザ・ウェイ」カミングアウトしたゲイ俳優3人の織りなすホリデーロマコメ
Netflix、Amazon Prime、Disney+、Hulu、U-Nextなど、サブスクリプション配信で映画やドラマを楽しめるプラットフォームは増える一方。
そのおかげで、日本で見られる映画やドラマの数は一挙に増加。そんな配信で見られるコンテンツの中から、ゲイが主役または重要な役割を担う作品を連続紹介する連載コラム。
第一回 「シングル・オール・ザ・ウェイ」Netflixオリジナル映画
目次
・この映画を50文字以内で表してみる
・ネタバレほぼなしの作品解説
・物語
・クレジット
・ネタバレありの率直感想
この映画を50文字以内で表してみる
ゲイであることがまったくマイナスにならないパラダイスのような田舎町で巻き起こるクリスマスの愛の奇跡。(50文字)
ネタバレほぼなしの作品解説
■多様性の時代に登場したクリスマス・ゲイ・ロマコメ映画
Netflixを見始めて実感したことの一つが「アメリカ人はクリスマスが大好きすぎる」ということ。
日本では正月映画興行として11月末ごろからハリウッド大作映画が公開されてきた影で、2007年の「ホリディ」のように例外的に日本で公開されるものもあるとはいえ、日本では未公開で終わっているクリスマスをテーマにしたロマコメ映画は結構作られていた。
オリジナル映画を多数制作しているNetflixでも、12月直前から毎年数本の新作クリスマス・ロマコメを配信している。そのおかげで、日本ではヒットしなそうだからと劇場公開を見送られることもなく、アメリカ製のクリスマス・ラブコメ映画の新作を、毎年見られるようになった。
ダイバーシティな時代を反映して、最近のクリスマス・ロマコメの主役も白人美男美女カップルだけじゃなく、人種などの幅も広がってきている。2019年には、アリ・ウォンとランドール・パークというアジア系俳優2人が主役のクリスマス・ロマコメ「いつかはマイベイビー(原題:Always Be My Maybe )」が登場した。
そして、2021年のホリデーシーズンに向けて、Netflix初のクリスマス・ゲイ・ロマコメ映画「シングル・オール・ザ・ウェイ」を配信。
主演のピーターを演じるマイケル・ユーリーは、TVシリーズ「アグリー・ベティ」でヴァネッサ・ウィリアムズ演じる編集長ウィルミナのアシスタントのマークというオネエでゲイなキャラで強烈な印象を残した人。
クリスマスに実家に戻ったピーターが、親友のニックと、ジムのイケメントレーナーであるジェームズとの間で恋に悩む、という物語。
クリスマス・ラブコメ映画の定石通りの展開を、カミングアウトしている3人のゲイ俳優が演じる設定となっている。
物語
■オープンリー・ゲイの恋愛は家族にとっても一大事
ロスアンジェルスでゲイ関係(?)の広告の仕事をしているピーターは、家族にもカミングアウト済みのオープンリーゲイ。いつまでもピーターが独身でいることを心配する家族を安心させようと、クリスマスには恋人の歯科医師と共に帰省する予定だった。
ところが、彼と破局してしまい、困ったピーターはルームメイトで親友のニックに、一緒に帰省して恋人のふりをしてほしい、と頼む。家族はすでにニックと会ったことがあり、気に入られていることがわかっていたから。
一緒に帰省することは承諾するニックだが、恋人のフリをするのは嫌だと断る。
実家に帰ると、ニックを心配している母キャロルが、通っているジムのイケメントレーナーであるジェームズとピーターのブラインドデートをセッティングしていた。
ところがピーターの父や姉妹、姪っ子たちはニックがお気に入りで、なんとかニックとピーターをくっつけようと画策する。
マッチョで魅力的なジェームズと、最高の親友であるニックの間で、ピーターは自分の思いに悩んでしまうのだが。
クレジット
監督:マイケル・メイヤー
脚本:チャド・ホッジ
出演:マイケル・ユーリ、フィルモン・チェンバーズ、ルーク・マクファーレン、ジェニファー・クーリッジ、キャシー・ナジミー ほか
公開日:2021年12月2日
原題:Single All the Way
カナダ映画/101分/Netflix配給
URL:https://www.netflix.com/title/81148358
【警告】
ここから先は、かなりのネタバレ注意です。
あらかじめご了承ください。
ネタバレありの率直感想
■多様性の時代らしい展開は、ゲイにとって本当に幸せなのか?
楽しく見られて、最後にはクリスマスの奇跡を実感するという、ハートウォーミングなクリスマス・ラブコメ映画の定石通りの展開。それをゲイを主役にしたことで、多様性の時代を実感できるし、よくできた物語で印象は決して悪くない。
「アグリー・ベティ」のビッチなオネエ役の頃から気になっていたマイケル・ユーリーが主役、というのも個人的には嬉しいところ。
主役のマイケル・ユーリー、ニック役のフィルモン・チェンバーズ、ジェームズ役のルーク・マクファーレンとゲイ役を演じる3人は、実生活でもカミングアウトしているオープンリーゲイ。
「私、ゲイには人気あるのよ」と語る強烈な叔母のリサ役には、映画「キューティー・ブロンド」シリーズでネイリストのポーレットを演じたジェニファー・クーリッジを充てるなど、ゲイ観客への配慮はバッチリ。
都会が舞台のクリスマス・ラブコメ映画なら必須のカラオケで歌うシーンの代わりに、ピーターが姪っ子2人を従えてオネエ丸出しで楽しそうに歌い踊る場面が用意されていて微笑ましい。
とはいえ、ゲイの恋愛に家族総出で口を突っ込んでくるのは、自分に置き換えたらたまったもんじゃないね、という素直な気持ちもあり。家族にカミングアウトするって、そこまでプライベートを丸裸にされちゃうの? という疑問も湧いてきた。
家族が望んでいるのはピーターが地元に帰ってきてニックと共に、ノンケ・カップルと同じく家族として暮らすこと。家族が大好きなピーターも、そうしたいと望んでいるようだ。
ノンケ男女と同じようにパートナーと2人で地元に溶け込んで暮らすことを理想とするゲイにとっては至福の設定なのだけど、逆に地元や家族のしがらみを逃れて都会で自由に暮らしたいゲイからすると地獄のような設定にも思えるかも。
この映画を居心地よく感じるか否かは、どういうゲイライフを選択したいかによって大きく変わりそう。
多様性の時代らしく、白人のピーターが黒人のニックを選んでハッピーエンドとなるのはいいのだけど、選ばれなかった白人マッチョのジェームズの扱いがあまりに酷すぎない? という不満は残る。
大家族で幸せなクリスマスを過ごすピーターとニックに比べると、他に友達もいない田舎町でぼっちクリスマスとなったジェームズの気持ち考えると胸が痛んでしまう。
ラストに酒場で歌っている気の良さそうなおっちゃん(←可愛い)が実はゲイでジェームズと結ばれる、というクリスマスの奇跡を用意してあげても良かったよね、というのが率直な感想。
(冨田格)