黒人ゲイが海兵隊で成長し愛を知る映画『インスペクション』日本公開希望
11月18日より全米で公開がスタートした新作映画『インスペクション』は、海兵隊に入隊した黒人ゲイの新兵を描く物語。ゲイであることに傷つき悩んできた青年が、海兵隊のブートキャンプでどんな経験をして成長していくのか。話題の映画をいち早く紹介する。
海兵隊を経験したゲイ監督の自伝的作品
『ムーンライト』『ミッドサマー』など話題作を次々と公開する、今もっとも勢いを感じさせる配給会社の”A24”が、11月18日に全米で公開した新作映画が『インスペクション(The inspection)』だ。
エレガンス・ブラットン監督の自伝的初監督作品『インスペクション』は、”A24”の公式サイトではこう紹介されている。
母親に拒絶され、将来の選択肢もほとんどない若いゲイの黒人男性は、自分を見捨てるようなシステムの中で成功するために必要なことは何でもしようと海兵隊に入ることを決意する。しかし、根強い偏見と基礎訓練の過酷な日課と戦いながらも、彼はこの新しいコミュニティで思いがけない仲間意識、強さ、サポートを発見し、自分のアイデンティティを形成し、人生を永遠に変えることになる得難い帰属意識を与えてられる。
https://a24films.com/films/inspection
『インスペクション』は黒人でゲイのロッキー
ブラットン監督は、『インスペクション』を “黒人でゲイのロッキー “だと表現している。
また、『インスペクション』に関して”Marine Corps Times”にこう語った。
私は16歳のときにゲイであることを理由に家を追い出され、その後10年間はホームレスとして過ごしました。自分はまったく価値のない人間だと本気で思っていましたが、幸いなことに、教官が「お前の人生は重要だ、お前は重要だ、お前は重要だ」と言ってくれたのです。
今は政治的に、左翼と右翼が実際にお互いの話を聞くよりも、お互いの違いから叫び合っているような時代だと思います。海兵隊で私は、自分とはまったく異なる人たちの話を聞くだけでなく、その人たちと有意義な人間的つながりを築く方法を学びました。
この機能不全の家族(海兵隊の仲間)のおかげで、自分を抑圧するようにと命じられながらも、自分をもっと愛せるようになりました。
過酷すぎる状況にも愛は芽生える
この自伝的映画の着想を得て企画を進めていたブラットン監督は、数年前にニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、こう語った。
自分の人生、そして『インスペクション』の脚本は、いわば『フルメタル・ジャケット』と『ムーンライト』の出会いなんだ。
スタンリー・キューブリック監督作品『フルメタル・ジャケット』は、海兵隊のブートキャンプ(新兵訓練所)で、徹底的な叱責と罵倒、殴る蹴るの体罰、連帯責任による懲罰、そしていじめなど、新兵が追い詰められる過酷な状況を描いた作品だ。
そんな過酷なブートキャンプにおいて、黒人でかつゲイであることで主人公のエリスはさらに厳しい状況におかれることになる。しかし過酷なだけではない、エリスはブートキャンプで恋心を抱くようになる男と出会うのだった。
カジュアルなホモフォビアと暴力的なホモフォビアが蔓延する海兵隊のブートキャンプだが、そこを体験したブラットン監督は同時に、ホモフォビアとは相反するようホモセクシュアルな空気も感じ取っているようだ。
今まで映画で描かれる機会がほとんどなかった海兵隊の黒人新兵の物語。さらに主人公がゲイであることも重要な要素となっている『インスペクション』。日本公開は現時点では未定だが、なるべく早く公開が決まってほしい。
A24:https://a24films.com/films/inspection
※参考記事:The New York Times/instinct
(冨田格)