【再掲】Netflix『シングル・オール・ザ・ウェイ』ゲイ主役のロマコメ映画
※クリスマスシーズンに最適なロマンチック・コメディ・ゲイ映画の記事を再構成。
2021年末に配信がスタートしたNetflixオリジナル映画『シングル・オール・ザ・ウェイ』は、ゲイが主役のクリスマス・ロマンチック・コメディ。クリスマスの時期に見るには最適の、この映画の魅力をゲイ目線で解説する。
アメリカ人はクリスマスが大好き
Netflixを見始めて実感したことの一つが「アメリカ人はクリスマスが大好きすぎる」ということ。
コロナ前の日本では、正月映画興行といえばハリウッド大作映画と決まっていたが、アメリカでは日本未公開のクリスマスをテーマにしたロマコメ映画は毎年のように作られていた。
オリジナル映画を多数制作しているNetflixでも、当然のように12月直前から毎年数本の新作クリスマス・ロマコメ映画を配信している。そのおかげで、日本ではヒットが見込めないからと劇場公開を見送られることもなく、アメリカ製のクリスマス映画の新作を、毎年見られるようになった。
ダイバーシティな時代を反映して、最近のクリスマス・ロマコメの主役も白人美男美女カップルだけじゃなく、人種などの幅も広がってきている。2019年には、アリ・ウォンとランドール・パークというアジア系俳優2人が主役のクリスマス・ロマコメ「いつかはマイベイビー(原題:Always Be My Maybe )」が登場した。
そして、2021年のホリデーシーズンに向けて、Netflix初のクリスマス・ゲイ・ロマコメ映画「シングル・オール・ザ・ウェイ」が配信となった。
主演のピーターを演じるマイケル・ユーリーは、TVシリーズ「アグリー・ベティ」でヴァネッサ・ウィリアムズ演じる編集長ウィルミナのアシスタントのマークというオネエでゲイなキャラで強烈な印象を残した俳優。2022年に日本公開した高齢ゲイのメークアップ・アーティストの物語『スワンソング』にも出演していた。
クリスマスに実家に戻った主人公が、ルームメイトの親友と、ジムのイケメントレーナーとの間で恋に悩む、というこの物語。
親友役のフィルモン・チェンバーズも、ジムのトレーナー役のルーク・マクファーレンもカミングアウトしているゲイ俳優。クリスマス・ロマコメ映画の定石通りの展開を3人のオープンリー・ゲイ俳優が演じる『シングル・オール・ザ・ウェイ』は、まさに今の季節にこそ見るべき一本だ。
『シングル・オール・ザ・ウェイ』の物語
ロスアンジェルスでゲイ関係の広報の仕事をしているピーターは、家族にもカミングアウト済みのオープンリーゲイ。いつまでもピーターが独身でいることを心配する家族を安心させようと、クリスマスには恋人の歯科医師と共に帰省する予定だった。
しかしクリスマス直前に破局! 困ったピーターはルームメイトで親友のニックに「一緒に帰省して恋人のふりをしてほしい」と頼みこむ。家族はすでにニックと会ったことがあり、気に入られていることがわかっていたからだ。
一緒に帰省することは承諾するニックだが、恋人のフリをするのは嫌だと断る。
実家に帰ると、ニックを心配している母キャロルが、自分が通っているジムのイケメントレーナーであるジェームズとピーターのブラインドデートをセッティングしていた。ところがピーターの父や姉妹、姪っ子たちはニックがお気に入りで、なんとかニックとピーターをくっつけようと画策する。
マッチョで魅力的なジェームズと、最高の親友であるニックの間で、ピーターは自分の思いに悩んでしまうのだが。
クレジット
監督:マイケル・メイヤー
脚本:チャド・ホッジ
出演:マイケル・ユーリー、フィルモン・チェンバーズ、ルーク・マクファーレン、ジェニファー・クーリッジ、キャシー・ナジミー ほか
公開日:2021年12月2日
原題:Single All the Way
カナダ映画/101分/Netflix配給
Netflix:https://www.netflix.com/title/81148358
【警告】
ここから先は、かなりのネタバレ注意です。
あらかじめご了承ください。
ネタバレありの率直感想
■多様性の時代らしい展開は、ゲイにとって本当に幸せなのか?
楽しく見られて、最後にはクリスマスの奇跡を実感するという、ハートウォーミングなクリスマス・ロマコメ映画の定石通りの展開。ゲイたちを主役にしたことで、多様性の時代を実感できるし、よくできた物語で印象は決して悪くない。
「アグリー・ベティ」のビッチなオネエ役の頃から気になっていたマイケル・ユーリーが主役、というのも個人的には嬉しいところ。
主役のマイケル・ユーリー、ニック役のフィルモン・チェンバーズ、ジェームズ役のルーク・マクファーレンとゲイ役を演じる3人は、実生活でもカミングアウトしているオープンリーゲイ。ルーク・マクファーレンは、2022年9月公開の、ハリウッド・メジャースタジオ初のゲイのロマコメ映画『ブロス』での準主役で出演している。
「私、ゲイには人気あるのよ」と語る強烈な叔母のリサ役には、映画「キューティー・ブロンド」シリーズでネイリストのポーレットを演じ、近年はHBOのドラマ『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』でエミー賞を受賞したジェニファー・クーリッジを充てるなど、ゲイ観客への配慮はバッチリ。
都会が舞台のクリスマス・ロマコメ映画なら必須のカラオケで歌うシーンの代わりに、ピーターが姪っ子2人を従えてオネエ丸出しで楽しそうに歌い踊る場面が用意されているのも微笑ましい。
とはいえ見ているうちに、ゲイの恋愛に家族総出で口を突っ込んでくるのは自分に置き換えたらたまったもんじゃないかも、と感じ始めた。家族にカミングアウトするって、そこまでプライベートを丸裸にされちゃうの? という疑問も湧いてきたりして。
家族が望んでいるのはピーターが地元に帰ってきてニックと共に、ノンケ・カップルと同じように”家族”として暮らすこと。家族が大好きなピーターも、そうしたいと望んでいるようだ。
これって、ノンケ男女と同じようにパートナーと2人で地元に溶け込んで暮らすことを理想とするゲイにとっては至福の設定なのだけど、逆に地元や家族のしがらみを逃れて都会で自由に暮らしたいゲイからすると地獄のような設定にも思えるかもしれない。
この映画を居心地よく感じるか否かは、自分が理想とするゲイライフのあり方で大きく変わってきそうだ。
多様性の時代らしく、白人のピーターが黒人のニックを選んでハッピーエンドとなるのは悪くないが、選ばれなかった白人マッチョのジェームズの扱いがあまりに酷すぎない? という不満は残る。ジェームズはまったくの悪人じゃない、というよりむしろ超善人。大家族で幸せなクリスマスを過ごすピーターとニックに比べると、他に友達もいない田舎町でぼっちクリスマスとなったジェームズの気持ち考えると胸が痛んでしまう。
ラストに酒場で歌っている気の良さそうなおっちゃん(←可愛い)が実はゲイでジェームズと結ばれる、というクリスマスの奇跡を用意してあげても良かったよね、というのが率直な感想。
(冨田格)
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