【再掲】ゲイ視点で見る映画「トップガン」戦闘機は何のメタファー?

※2021年11月にスタートした「ジオ倶楽部」1周年を記念して、この1年間公開した記事の中から今読むべき記事を再掲載する。

サブスク配信で見られるコンテンツの中から、ゲイ映画ではないはずなのに、ゲイ視点で見ると「ゲイ映画」としか見えない作品を連続紹介する連載コラム。

この夏『トップガン マーヴェリック』が大ヒットしたが、あらためて第一作の『トップガン』を見直すと、そこはゲイの心をくすぐるポイントの宝庫だった。読んでから見ると3倍楽しくなること確実な『トップガン』をゲイ視点から解説する。

第一回「トップガン」

トップガン

35年ぶりの続編「トップガン マーヴェリック」が話題のなか、Amazonプライムビデオ、Hulu、dTVでサブスク配信中のオリジナル「トップガン」をゲイ視点で見直す。

目次

・この映画を50文字以内で表してみる
・ネタバレほぼなしの作品解説
・物語
・クレジット
・ネタバレありのゲイ視点感想

この映画を50文字以内で表してみる

トップガン

男好きだらけの楽園(トップガン)に放り込まれた無自覚ノンケ男に周囲の男好きが色めきだって、さあ大変。(50文字)

ネタバレほぼなしの作品解説

トップガン

全米では1986年5月に公開され大ヒット。そして日本では1986年12月に正月興行の目玉として公開、配給収入39億円の大ヒットとなった。

※現在は興行収入が公開されているが、当時は興行収入から宣伝費や劇場収益を引いた配給会社に支払われる配給収入が公開されていた。配給収入は興行収入の約50%と考えられている。ちなみに、1986年の大人料金は1500円だった。

1983年公開の「卒業白書」でYA(ヤングアダルト)スターとして一躍人気者になったトム・クルーズにとって、初の大作映画の主役。この作品以降「ハスラー2」「カクテル」「レインマン」「7月4日に生まれて」「ア・フュー・グッドメン」と、大スターへの道を歩んでいくことになった。

アメリカ海軍が全面協力したことで、海軍航空基地や空母「レンジャー」でのロケが実現。戦闘機による航空アクション場面もほぼ全部が実機を使った迫力のあるものになっている。

共演は、ヒロインのチャーリーを演じるケリー・マクギリス、ライバルのアイスマンを演じるヴァル・キルマー、他に若き日のティム・ロビンスやメグ・ライアンも登場。

トップガン

MTVによってアーティストのMV制作が盛んになり始めた1980年代半ばは、ヴァリアス・アーティストによるサウンドトラックが主流になり始めた時代。「トップガン」はその代表的な作品の一つであり、ベルリンの「愛は吐息のように」ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」などを収録したオリジナル・サウンドトラック盤も大ヒットした。

監督は、リドリー・スコット監督の弟であるトニー・スコット。CMディレクター出身で、1983年の「ハンガー」に次ぐ、監督第二作め。

物語

トップガン

ピート・ミッチェル(マーヴェリック)は、秘匿事項とされた父親デューク・ミッチェルの謎の死の影を引きずり、野生の勘を頼りに無鉄砲で型破りな操縦を行うアメリカ海軍の艦上戦闘機・F-14のパイロット。

ミラマー海軍航空基地のパイロット養成訓練学校(通称・トップガン)に、マーヴェリックとパートナーであるレーダー要員のグースは派遣を命じられる。そこに集められた優秀なパイロットたちと、トップの座を争っていくことになる。

連日、厳しい訓練が繰り返されるも、マーヴェリックはグースとの絶妙なコンビネーションで次々と提示される課題をクリアしていく。しかし、マーヴェリックをライバル視するアイスマンは、彼の型破りな操縦を無謀と指摘する。

一方、マーヴェリックは新任の女性教官チャーリーに心奪われていくのだが。

クレジット

監督:トニー・スコット
制作:ドン・シンプソン、ジェリー・ブラッカイマー
出演:トム・クルーズ、ケリー・マクギリス、ヴァル・キルマー、アンソニー・エドワーズ、トム・スケリットほか
配給:パラマウント・ピクチャーズ(アメリカ)UIP(日本)
1986年/アメリカ/110分

アマゾンプライム:https://onl.sc/93XJJbx
Hulu:https://www.hulu.jp/watch/60609232
dTV:https://video.dmkt-sp.jp/ti/10007451/

【警告】

ここから先は、かなりのネタバレ注意です。

あらかじめご了承ください。

ネタバレありのゲイ視点感想

トップガン

1986年末に、歌舞伎町の新宿プラザ劇場(現・TOHOシネマズ新宿)の巨大スクリーンでこの映画を見た筆者は、「カッコいい兄さんたちの裸がいっぱい見られて、いい映画だったな~」という印象を持っていたのだが、この原稿を書くために、久しぶりにサブスク配信で再見してみて確信したのは、「ゲイ観客への配慮がいきすぎている」ということだ。

以下の3つのポイントから、「ゲイ観客への配慮」を解説しよう。

1)男の肉体への執着が露骨すぎる
2)女性の存在があまりにも「記号的」で希薄すぎる
3)同性愛を暗示する行動や仕草が多すぎる

まず、「男の肉体への執着が露骨すぎる」点から。

若く逞しい男が好きなら、この映画はまさに眼福。トム・クルーズもヴァル・キルマーも、他のパイロットやレーダー要員たちも、見せるために鍛え上げたとしか思えない肉体を晒しまくる。

トップガン

この訓練学校は、教室とロッカールームしかないんじゃないの? と思うほど、なにかといえばロッカールームで上裸の男たちがゾロゾロ登場。

極め付けは、トム・クルーズ組vsヴァル・キルマー組の2×2によるビーチバレー対決の場面。まさにMV風に延々と、男たちの肉体を映し出すのだが、よくよく考えると物語的にはこの場面は無くても成立するし、ここまでねちっこく男の肉体を濃密に見せる必要性は感じない。

ノンケ男性が、男の肉体に執着しているとしか思えないこの描写を見てどう感じるのかはわからないが、ゲイにとってはこれぞ至高の名シーンだ。

トップガン

続いて、「女性の存在があまりにも『記号的』で希薄すぎる」点。

主要な女性キャストは二名だけ。一人は、トム・クルーズが恋する女性教官のケリー・マクギリス。もう一人はグースの妻を演じるメグ・ライアン。

前半のパーティーの場面で賑やかしのように色っぽい女性たちが多数配置されるもセリフはなし。他には上官の家を訪ねた時に、妻が一瞬登場するのみ。

ヒロインのケリー・マクギリスにしてもメグ・ライアンにしても、キャラクターの内面はほぼ描かれず、あくまで恋人とか妻としての「記号的」な存在で、観客は感情移入しづらい。なぜ、教官のケリー・マクギリスが「生徒とは恋に落ちない」という自分に課したルールを破ってトム・クルーズに恋をしたのか、正直、理解できない。それは、その精神的な逡巡がまったく描かれていないからだ。

「トップガン」が女性に評判があまりよろしくないのは、ここに原因があるのだろうと思う。

察するに、この女性2人は、トム・クルーズとグースがノンケだと設定するための「言い訳」に使われているのではないだろうか。逆に言えば「恋人と妻がいる=2人はノンケ」という言い訳を成り立たせないことには、ノンケ男性観客が心おきなく楽しめないほどにゲイ的濃度が充満しすぎているのだ。

トップガン

そこで「同性愛を暗示する行動や仕草が多すぎる」点だ。

戦闘機にはパイロットとレーダー要員の2人が乗り込む。野球でいえばピッチャーとキャッチャーのごとく「職場における夫婦」とでもいうような関係だ。そして野球と違って、文字通り命懸けのパートナーなので、絆が濃厚になるのは分かる、そこはよく分かる。

しかし、最初に訓練学校の講義の場面でギョッとするのは、パイロットとレーダー要員がペアシートに2人ずつ座っていることだ。訓練学校でロケをしたそうなので、もしかするとこのペアシートも実際に使われているのかもしれないが、パートナーというよりもカップル感が濃厚なのだ。

戦闘機が爆撃をして敵機を撃ち落とす映像を見ているカップル、もとい、あるパートナー同士が「おっ立つぜ」「おれも」と顔を見合わせてうっとり語りあうと、戦闘機は一体何のメタファーなのか考え込んでしまう。

アイスマンは、自分よりも長身のレーダー要員スライダーに肩を抱かれているような座り方をしながら、斜め前に座っているマーヴェリックに熱い視線を送りつづける。物語的にはライバルと思しき相手への厳しい視線、というところだろうが、しかしあまりにも熱く見つめ過ぎなのだ。

トップガン

そんな周囲の男たちの不穏な空気にまったく気がつかないノンケのマーヴェリックは周囲をキョロキョロ見まわしては、アイスマンの厳しい眼差しに気が付く。するとアイスマンがニッコリ微笑む! この展開、もはやゲイバーでのイケる相手への視線の応酬ではないか。

それに続くパーティーの場面でアイスマンはマーヴェリックに「キスまで、あと1秒。」の距離に近づいて嫌味を言うわ、ビーチバレーの場面では上裸のスライダーと汗まみれでいちゃいちゃするわ、とにかく男たちの距離が近い、近すぎるのだ。

トップガン

故トニー・スコット監督が、何を意図して男同士の濃密な描写を演出をしたのかもはや尋ねる術はないが、監督は後に「スパイゲーム」というもっとあからさまなゲイ描写に溢れた映画を作っているので、確実にゲイ受けを狙っていたのだと確信した。

「トップガン マーヴェリック」を見る前に、前作を予習で見ておこうと思う人は、ぜひゲイ視点で楽しんでほしい。意外に盛り上がりにかける物語のアラも気にならなくなるはずだから。

(冨田格)

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