チリの五輪体操選手トマス・ゴンサレスのカミングアウトから見えてきた問題
カミングアウトするアスリートが増えるなか、体操選手のカミングアウトは非常に稀だ。そこには、体操競技自体が抱える問題が影響しているという。葛藤しながらも長い間クローゼットで胃ざるを得なかったチリのトマス・ゴンサレス選手の体験から、男子体操競技の問題を考える。
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オリンピック体操選手の教訓、勝利、そして転落
チリ出身のオリンピック体操選手、トマス・ゴンサレスは、新刊の自伝の中でゲイであることをカミングアウトした。その自伝のタイトルは『チャンピオン;オリンピック体操選手の教訓、勝利、そして転落』だ。
ゴンサレスは2012年ロンドン五輪、2016年リオ五輪、2021年東京五輪に出場したが、メダル獲得はならず、2012年の2種目で4位が最高成績だった。
自伝の刊行に向けてスペインのウェブサイト『El Desconcierto(当惑)』のインタビューに応えたゴンザレスは、こう語った。
「(時代が変わり)もはや問題ではないと思うけど、そう、私はゲイです。私はカミングアウトするのならば、この自伝の中でしたいと考えました」
性的少数者アスリートのロールモデルになりたい
ウェブサイト『El Desconcierto』のインタビューでゴンザレスが語った内容を続ける。
現在36歳のゴンザレスは、20代半ばで自分がゲイであることに気づいたという。しかし、自分のセクシュアリティと折り合いをつけるには時間がかかったそうだ。
「あの頃はよく泣いてました。同性愛者である自分と折り合いをつける過程で、自分の一部も死んでいくような気がしたのです」
多くの性的少数者のアスリートと同様に、ゴンサレスはこれ以上クローゼットでいることに耐えられなかったと言う。秘密の重圧が彼にのしかかり、生活の質にも影響を及ぼしていた。
2012年ロンドン五輪の後で彼は「これ以上我慢できない、自分を隠してとここまでやってきたけれど、体操も自分の成果も楽しめていない」と実感した。
画期的なアスリートであるゴンサレスは、チリ人体操選手として初めてワールドカップでメダルを獲得し、夏季五輪の出場権を獲得した。ワールドカップでは4つの金メダルを含む9つのメダルを獲得し、パン・アメリカン競技大会(南北アメリカ大陸の国々が参加するマルチスポーツイベント)では6つのメダルを獲得した。さらに、南米大会では7つのメダルを獲得し、世界選手権には8度出場している。
マット上での成功にもかかわらず、ゴンザレスはまだ物足りなさを感じていた。彼は、今日のスポーツ界でより多くの性的少数者のロールモデルが見られることを嬉しく思い、自分自身をそのリストに加えたいと考えている。
「結局のところ、普通のヘテロ社会で育ってきたことが、自分を条件づけてきたと思います。ここにきて、世の中の流れが変わってきていることが嬉しいです。私よりも年下の新しい世代は、おそらく社会に大きな影響を与えてきた宗教の重荷を背負っていないのでしょう」
男子体操競技が内包している問題
2020年東京五輪では、少なくとも186人のカミングアウトしたアスリートがいたが、体操選手は1人だけ、南アフリカの女子体操選手ケイトリン・ルースクランツのみだった。
オーストラリアの体操選手、ヒース・ソープは、18歳のときにゲイであることを公表しているが、男性体操選手にゲイであることを公表している選手が少ないことについて詳しく語っている。男性体操選手は一般的に男尊女卑的考えが支配的であるため、表現の幅が狭くなっていると考えているそうだ。
「男子体操の目に映る芸術性は女性らしさとイコールであり、私たち男子体操選手はそれを悪いことだと捉えている」
と彼は昨年、メディアのインタビューでこう語った。
※ヒース・ソープの詳細はこちらの記事を参照「【オーストラリア】パリ五輪を目指す体操選手のパーフェクト筋肉ボディ」
しかし、ゴンザレスは自分が積極的に表に出て活動することで、男子体操界にはびこる支配的な意識を変えたいと考えている。ゴンザレスは今年、社交ダンスをテーマにしたチリの人気リアリティ番組『Aquí Se Baila』に出演した。
彼は、自分が体操以外でメディアに出ていくことや、性的少数者に関する政治運動に介入することへの不安を認めながらも、自分が本当の自分として生きていく必要性を痛感している。
「私たちは皆、同じように働き、税金を納め、社会で役割を担っている。だから、他の国民と同じ権利を持ちたい。性的指向に関係なく、みんなが同じ権利を持たなければならないのです」
本当の自分の人生を歩んでいくことを決めたトマス・ゴンサレス。今後、彼ががどのような活動をしていくのか注目していきたい。
※参考にした記事はこちら:QUEERTY/Outsports
(冨田格)
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