アバクロ元CEOがセックス・パーティーで男性モデルたちを性搾取と告発
かつて日本のゲイの間で人気だったブランド『アバクロ』だが、排他的な白人優位主義やアジア人蔑視、体型差別などの悪評が広まり人気が廃れていった。一時的に大成功したゲイ男性を惹きつける戦略の裏には、ゲイの有力者による性搾取と性加害があったと、かつてのモデルたちが告発している。
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若く逞しい半裸の男たちのビジュアル
2000年前後、当時は直営店がなかったにも関わらず日本のゲイの間で大ブレイクした米国のアパレル・ブランド『アバクロ』こと『アバクロンビー&フィッチ』。『アバクロ』自体の歴史は古く、1892年に誕生した。男性向けのアウトドア・ブランドとして人気を誇ったが、1990年代には時代遅れなおじさんブランドと化していた。
ところがブランドが買収され、1992年にCEOにマイク・ジェフリーズが就任してブランド・イメージを刷新する大改革を行ったことで、米国の若者の間で『アバクロ』の存在感が一気に大きくなっていった。
その改革とは、おじさんブランドと見られていたアイテムのラインナップを刷新、ターゲットを大学生の男女に定め、『カルバン・クライン』のセクシー路線と『ラルフ・ローレン』の上品路線の間を狙い、かつ若者がショッピング・モールで購入できる値頃な価格設定にしたことだ。
アイテムだけではなく、ブランドのビジュアル・イメージも大きく方向性を変えた。健康的な白人の大学生をイメージさせる男女モデルたちを起用。有名なモデルではなく、新人モデルや素人をスカウトすることで、ユーザーに親近感を抱かせる戦略をとる。
健康的な、つまり”いい体”をした白人の若者たちがアウトドアで露出度の高い姿で戯れるビジュアルは、アパレル・ブランドとしては異例のものだった。なにせ、ブランドのアイテムよりも肉体、しかも男性の肉体に焦点があたっていたからだ。
店舗には若く逞しく健康的な半裸の男性のポスターが掲げられ、商品を購入したユーザーにはマッチョな男性の肉体がプリントされたショッパー(紙袋)が手渡される。アパレル・ブランドでありながら、目立つのは逞しい男たちの肉体。
この戦略に、ゲイが注目しないはずはなかった。
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ブルース・ウェーバーが作り上げたイメージ
『アバクロンビー&フィッチ』のビジュアルは、写真家で映画監督のブルース・ウェーバーが担当した。女性と同じように男性もセクシーかつ魅力的に撮影することで評価の高いウェーバーは、自分のセクシュアリティを明らかにはしていない。
しかし、2002年にはインタビューでこう語っている。
「男女を問わず、ほとんど毎日恋に落ちることができるような気がするんだ。それを感じられない人はかわいそうだ」
季節ごとにブルース・ウェーバーがブラジルなどのロケ地で撮影した、白人男女モデルの大量の写真は、ポスターやショッパーだけではなく、カタログをかねた大判の分厚い季刊誌として販売された。そして、この季刊誌が世界中のゲイがこぞって購入することになった。
カタログを兼ねたと言うものの、掲載されるビジュアルの大半は半裸もしくは全裸のモデルたち。大学生の男女がアウトドアではしゃぎ戯れる設定であるものの、女性だけや男女が一緒に写っているものよりも、男同士が半裸もしくは全裸で戯れる写真の方が圧倒的に多い。
ある意味、”上品”でアダルト指定ではないゲイ雑誌ともいえる仕上がりになっていたのだ。
マイク・ジェフリーズが行ったブランド刷新と、人種や体型などを差別する排他的な戦略、ブルース・ウェーバーと共に作り上げたビジュアルの方向性や、それにまつわる性加害・性搾取の告発などは、Netflixが2022年に発表したドキュメンタリー『ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰』で詳細に描かれている。
その中には、当時の人気モデルたちがブルース・ウェーバーの性的な誘い方や断ったことでクビになった話などが赤裸々に語られており、『アバクロ』の戦略が一時的に大成功しつつも道を誤っていく過程とともに、実に興味深い内容となっている。
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新たなセックス・スキャンダル告発
ある種のカリスマだったマイク・ジェフリーズだが、白人優位、体型差別といった排他的な戦略は批判の対象となり、ブランドの売り上げは急減。ジェフリーズは退任して、ブランド自体は多様性を目指す方向へとリニューアル。かつての勢いは失ったが、現在も続いている。
批判やスキャンダルの嵐も収まったかと思いきや、ここにきて新たな告発がなされ再びジェフリーズに注目が集まっている。
英国BBCの調査ドキュメンタリーシリーズ『パノラマ(Panorama)』の新エピソード「アバクロンビー・ガイズ:クールのダークサイド(The Abercrombie Guys: The Dark Side Of Cool)」が、2009年から2015年にかけてジェフリーズとパートナーのマシュー・スミスが主催したパーティーでの性的搾取と虐待をとりあげた。
ジェフリーズとそのパートナーはこの時期、ニューヨークの邸宅や世界中のホテルで開かれる”パーティ”に参加する若い男性をスカウトして集め、そこでセックスを搾取する仲介業者と協力していたとされている。
BBCの取材に応じた男性の半数は、パーティーが「セックス・イベント」であることを事前に伝えられていなかったので「自分たちに何が期待されているのか正確には知らなかった」と語っている。
参加した若い男性全員が報酬を受け取っていたが、そのうちの何人かはスカウトされる時に「『アバクロ』のモデルになれるかもしれない」と持ちかけられたという。
この件は「高度に組織化された虐待のネットワーク」の存在があるとみなされており、2人の元米国検察官が、BBCの広範な事実確認と調査で示された証拠を検討し、ジェフリーズ、スミス、そして彼らの仲間に対して性売買の罪を問えるかどうかの調査を求めているそうだ。
Netflix『ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰』の中では、ジェフリーズの性的指向がゲイであると示唆されている。
ジェフリーズとスミスは現在コメントを発表していない。この件の進展があれば、あらためて続報をお伝えする予定だ。
Netflix『ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰』
※参考記事:QUEERTY
(冨田格)
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