【ゲイと親の介護】兄弟が介護を担ってくれているゲイが知っておくべきこと

親の介護は、誰にとっても無関係ではない身近な問題だ。しかし、実家と離れて暮らしており、親の介護は実質的に兄弟姉妹が担ってくれているという人も少なくないだろう。

ここでは、兄弟姉妹のおかげで介護の負担が軽くて助かっているゲイに伝えたい、介護する側の本音を紹介する。認識の違いで家族間に深い溝を作らないためのアドバイスとして、読んでほしい。

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親の介護生活は突然やってくる

親の介護をする者の本音
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今回は、母と長年同居して在宅介護を体験した筆者の実体験をもとに、介護生活中に感じた気持ちを率直に伝えようと考えている。

男三人兄弟の末っ子である筆者は、大学入学以降、東京で一人暮らしをしていた。上の二人の兄たちはそれぞれ結婚して関東に住んでいる。両親は九州に住んでいたが、筆者が30代前半の頃、父が突然の病で倒れ亡くなる。

ゲイゆえに結婚する意思がない筆者が、母と東京で同居することを決めた。独身なので嫁姑の問題も起きないし、兄2人と違って孫の顔を見せてあげることもできないことへの罪滅ぼしの気持ちもあったかもしれない。

同居をはじめてから約20年、60代後半だった母が70代、80代となるにつれ、だんだん活動量が減り、一人で外出することがなくなってきた。それでも、洗濯や炊事などの家事は続けてくれていた。

掃除や料理など、少しずつ筆者が担当するようになっていったが、大きな病気をすることもなくひとまず平穏な日々が続いていた。

しかし、2010年代後半に、突然めまいを起こして倒れて、入院。そこから介護認定を受けて、在宅介護の日々が始まった。

介護を担う者の6つの実情と本音

親の介護をする者の本音
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さて、筆者が実質5年間の在宅介護生活をした上で、切実に感じたことをまとめてみよう。兄弟が親の介護をしていて、たまに実家に帰るだけで済んでいる人には、ぜひ知っておいてほしいことだ。

1)親の介護は24時間営業、常に不安を抱えている
2)介護を担う人は自分の時間を持てない
3)介護を担う人は仕事を諦めざるを得ない
4)親が入院したら大変なのは退院直後
5)介護から解放する時間を作る人は神
6)ヘルプを求めて迷惑そうにされる絶望感は深い

以上の項目それぞれについて、簡単に説明していく。

1)親の介護は24時間営業、常に不安を抱えている

親の介護
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うちの母の場合は、背中が曲がってきたために安定感を失い、室内で転倒してしまうことがたまにあった。そして転倒すると自分では起き上がれなくなってしまう。

まだ介護度が低い頃は、仕事で外出することもあったが、常に母が転倒していないだろうか、という不安を抱えていた。仕事が終わって「これから帰るね」と家に電話するのだが、その時に母が電話に出ないともしや倒れているのでは、という不安が襲ってくる。

「トイレに行っているだけに違いない」と願いながら、少し時間をおいて再度家に電話をかけて母が出てくれると安心できるが、それでも出ない場合はとてつもない不安に襲われながら急いで帰宅する。

大概は、寝ていて電話に気がつかなかったという状況なのだが、たまに不安が的中して転倒している場合もあった。そのときは、転倒した母が起き上がれないままどれだけ不安であったかを考え、自分が外出してしまったことの罪悪感に苛まれることになる。

母は何度か入院を繰り返し、そのたびに介護度が上がっていったので、次第に仕事で外出することは困難になり、家と家の周囲でできる範囲の仕事しかできなくなっていった。

2)介護を担う人は自分の時間を持てない

親の介護
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在宅介護をするということは、家事全般に加えて、母の世話をする時間も必要だ。病院に通院するにしても一人で行かせるわけにはいかない。元気だった頃に比べると、移動するための時間はより長くなるのが当然だ。また体調の悪化によっては、通院する機会も増加する。

その合間をぬって、家や家の近くでできる仕事をこなすわけだから、たとえば趣味のために費やすなど、自分の時間を持つことは次第に無理だと悟るようになる。なぜなら、自分の時間を作ることなど不可能だという現実に直面し続けるからだ。

3)介護を担う人は仕事を諦めざるを得ない

親の介護をする者の本音
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仕事のために外出することはできなくなるし、在宅ワークができる時間も限られてくると、介護生活に入る前の仕事を継続するのは困難になる人が多いはずだ。

筆者は、在宅でできるライター業を細々と続けながら、短時間ずつの外出で済む国勢調査員やDM配布など、家の周囲でできる仕事をみつけてこなしていた。ずっと家にいると運動不足になるので、短時間ずつ外を動き回る仕事をみつけられたのはありがたかった。

4)親が入院したら大変なのは退院直後

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母が元気だった頃は、兄弟が家族を連れて母に会いにくるのは正月とお盆、ほか年に数回という感じだった。決して遠距離ではないのだから、もっと顔を観に来ればいいいのにとは思っていたが、それぞれ子育てもあるのだし仕方ないと割り切るようにしていた。

しかし、介護生活が始まると、そうは割り切れない状況も出てくる。2010年代後半の初めての入院以降、母は数回の入院を繰り返すことになる。母の体調が悪化して、救急車を呼んで病院に運んでもらうまでの不安はとてつもなく大きいものだ。

いざ入院が決まると、介護する側にとっては実は肩の荷がしばらく降りることになる。退院までの期間は病院で看護師さんたちが常に状態を看てくれるので、精神的な負担が軽くなるうえに、家事の量も減ることから自分の時間を持つことができるようになるのだ。

ところが、兄弟にとっては「母が入院した」ということは一大事であり、日頃は顔を見せないにも関わらず、病院にはしょちゅう見舞いに行くようになる。

ここが介護を担う者と、兄弟に介護を任せている者の、大きな認識の違いなのだ。

入院している間は介護をする側の負担は軽くなるのだが、逆に退院直後は負担が一気に重くなる。退院=全快、ではない。退院とは、入院することになった原因の治療が終わった、ということに過ぎず、生活レベルは入院前よりも著しく下がっている。

介護する側にとって退院直後は、病院で看護師さんたちが担ってくれていた母の状態に目を配ることを一人でやらねばならないということなのだ。トイレに一人で行けないなら、毎回介助も必要になってくる。

あるときは退院直後に頻尿を訴え、30分に一回くらいのペースでトイレに連れていかねばならないこともあった。それは夜中も続くので、まともに睡眠をとることもままならない。

しかし、兄弟たちは母が退院したことで安心してしまい、頻尿の状況を伝えても家に顔を出してはくれなかった。

5)介護から解放する時間を作る人は神

親の介護
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介護度が上がるにつれ、一人で介護を担うのは不可能になってきたので、デイサービスを利用するようになった。平日は週3回、近所のデイサービスに日中行ってもらうことで、その間に掃除や買い物を済ませることができるようになった。

また、いろいろ調べて日曜日に営業しているデイサービスを見つけて、そこにも通ってもらうことにした。

そして、はっきり言わないと状況を理解してもらえないと考え、兄二人に月2回ずつ日曜日に来てほしいと頼むことにした。デイサービスから帰ってきた母を迎えて夕飯を一緒に済ませてもらうことで、筆者は週に一回半日だけ、家事や介護から解放される時間をもてるようになった。

母が施設に入所して介護生活が終わった今になって振り返ると、あの日曜日の半日休日を作れたことが精神的にはとても大きな救いになっていた。

頼みを聞いて助けてくれた兄弟には本当に感謝している。

6)ヘルプを求めて迷惑そうにされる絶望感は深い

親の介護をする者の本音
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感謝している、と言った直後に何なのだが。

一人で介護を担うことがさすがに不可能だと追い詰められるまでは、兄弟にヘルプを求めることをしなかった。それは、介護生活を始めてからも滅多に様子を見にくることがない兄弟に対して、ある種諦めの気持ちを抱いてしまっていたからだ。

介護をする側からすれば、「家事も介護もやっていればどんなに大変な状況か分かるだろう」いや「分かって当然だろう」という気持ちになっていた。だから滅多に顔を見せない兄弟に対して、「だったら俺が全部責任もって担ってやるよ、やればいいんだろ!」くらいの意固地な感情を抱いてしまっていたのだ。

さすがに一人で担い続けるのは無理になって、月2回助けてほしいとヘルプを求めたときに、不承不承という表情で受け入れてもらえてホッとした反面、「こっちの状況はまったく理解してくれていないんだ」という深い絶望感にも同時に襲われたのだ。

介護する人の状況と気持ちを想像する余裕を

親の介護をする者の本音
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以上、かなり率直に介護を担う者の気持ちを書いてきた。兄弟姉妹が介護を担っているために、たまに顔を見せるだけで介護の負担から逃れられている人には、介護を担っている人の状況を想像する気持ちの余裕をもってほしい。

そして、実家に顔を出すときは、お客さん気分ではなく、兄弟姉妹の負担を少しでも軽くするためにはどんな手伝いをすればいいのかを考えてほしい。分からなければ、自分に何ができるのかということを、兄弟姉妹に尋ねてみるのもいいかもしれない。

例えば夕食のおかずを買って行こうと考えたとしても、高齢者の食事を作る人は血圧のことを考えて塩分を気にした食事を用意するのが当たり前だ。そこへ、自分の好みで塩分を気にしない惣菜など買っていこうものなら、「気を使ってくれるのは嬉しいんだけど」と喜んでもらえない可能性だってある。

介護を担っている兄弟姉妹が、誰にも頼れないという気持ちにならないよう、いつでも協力するよという気持ちをまめに伝えるだけでも精神的に救いになるはずだ。そして、ヘルプを頼まれたときは、何をおいても協力してあげてほしい。

親が亡くなったあとも家族関係は続くのだから、少しでも助け合っていくことが家族関係が円満にいくための秘訣だと考えている。

(冨田格)

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