「おすぎとピーコ」の現状から、同世代ゲイカップルの老老介護の不安を考える
WEBサイト「NEWSポストセブン」が5月10日に配信した「おすぎとピーコ『50年ぶり同居で老老介護』の顛末 互いの消息を知らぬ現状」という記事に衝撃を覚えた50代後半以上のゲイは少なくないだろう。
しかし、これは他人事ではない。同世代のパートナーがいるゲイカップルにとっては、特に遠くない将来の自分たちの姿が重なってくるはずだ。
認知症が不可能にした「老老介護」
1970年代後半にメディアに登場したゲイの双子は、頭の回転の早さを感じさせる当意即妙なやりとりや、歯に衣着せぬ毒舌で、一躍時代の寵児となる。
紆余曲折はありながらも、それぞれメディアに出続けて活躍してきたが、気がつけば彼らも77歳と後期高齢者。福岡を拠点に活動していた「おすぎ」に認知症の症状が現れはじめ、横浜の自宅に戻りピーコと同居するようになる。
これが、まさに同い年の後期高齢者による「老老介護」だ。老化のスピードや体調の変化は、人によってさまざまなので、70代後半でも「老老介護」をきちんと担うことができる人もいるだろう。
しかしピーコにも認知症の症状が現れはじめたら在宅での「老老介護」は困難だ。
同世代ゲイカップルに「老老介護」は可能か
家族もパートナーもいない独身ゲイは老後への不安を抱く人は多いが、長年つきあっているパートナーがいる人は独り身のゲイほどは不安を感じていないかもしれない。
「いざというときは、お互いに面倒をみあっていけばいい」
それはたしかに大切なことだし、心強いものでもある。しかし、「お互いに面倒をみあう」ためには、お互いが心身も頭も、ある程度健康を維持し続けることが必須となる。
同居していた母の在宅介護を数年間経験してきた筆者は、後期高齢者が怪我や病気をきっかけに生活の質が低下していく様を身近で見続けてきた。
洗濯や炊事など、ある程度の家事をこなしていた80代の母が、突然めまいを起こして転倒して入院することになった。この入院をきっかけに、病気や怪我で入院を繰り返していくことになる。
後期高齢者が1週間も入院すれば、筋力が極端に落ちるし、ベッドで寝たきりになるので思考する力も明らかに低下する。
若いうちは、退院して日常生活に戻れば元の状態に戻るのはそう困難ではないが、後期高齢者は違う。入院時に先生から言われるのは、退院しても以前の7割程度にしか回復しないだろう、ということ。
お互いに元気で健康ならば、一人が入院して生活の質が落ちても、それを補っていくことはできるかもしれない。しかし、決して体調が万全とはいえない状態のときに、パートナーが入院して、その後「老老介護」をしなければならなくなったときに、はたして介護を担うことができるだろうか。
ましてや、おすぎとピーコのように、一人もしくは二人とも認知症の症状が現れる可能性だってある。
途方に暮れる前に情報に触れる
同居して在宅介護を担ってくれるわけではなくとも、子供がいれば「老老介護」に行き詰まったときに、施設へ入所する手続きや自宅の整理などを手伝ってもらえる可能性はある。しかし、独身ゲイカップルの場合は、助けてくれる人はいない。
「いざというときは、お互いに面倒をみあっていけばいい」
では、うまくいかない可能性が小さくはないということを頭に入れておく必要がある。
後期高齢者ともなれば、病気や怪我など「いざ」という時は突然やってくるもの。そうなった時に焦って途方にくれないためにも、少しでも若く元気な間から、老後や介護のことに関する情報に触れて予習をしておくことは必要だ。
・病院に入院するときは「身元引受人」「連帯保証人」の二名が必要になること
・介護認定はどうやって受ければいいのか
・在宅介護をする場合、介護保険で受けられるサービスにはどのようなものがあるのか
・在宅介護が困難で施設に入らねばならなくなったとき、施設の種類や費用はどれくらいかかるのか
・認知症の症状が現れたらどうすればいいのか
・「もしも」のことが起きたら、どんな整理が必要になるのか
などなど、いざという時に途方にくれないために予習しておくことはたくさんある。一度に全部を把握するのは無理なことだから、元気な間に折をみては情報に触れておくほうがいいだろう。
ジオ倶楽部でも、これからもゲイの老後や介護に役立つ情報は提供していくが、老後や介護情報の専門ニュースサイトをのぞいたり、わかりやすく解説している書籍に目を通すことも重要だ。
自分たちだけで予習するのは不安で、誰かに相談したいなら、ゲイの老後に対する不安解消のための活動をしているアライアンサーズに話を聞いてみるのもいいかもしれない。
アライアンサーズの久保さんに、同性代ゲイカップルの老後に関して必要となることを尋ねてみると、
愛する同性パートナー(彼氏)に対して出来ることは、相互扶助のための『公正証書(後見契約・死後事務委任契約・遺言等)』と『支援に必要なお金(介護の備えの保険も含む)』です。
愛情はカタチに変えていかないと第三者へは証明出来ず、認知症発症後などは法定後見発動により、一緒にいることさえ出来なくなる可能性があります。
まずは個々人の状況に応じた相談からプロのプランニングが必要です。
という答えが返ってきた。自分たちで情報を集め、さらに専門の知識を持っている人に相談することで、老老介護のための準備すべきころがより明確になっていくだろう。
おすぎとピーコの現状を知り、自分たちの老後の不安がいたずらに大きくなっているかもしれないが、情報や知識に触れたり、専門家に相談することで、いつか来るかもしれない日に備えて準備を始めることはできる。
着々と準備を進めていけば、少なくとも漠然とした不安は解消できるし、いざという時も途方にくれず次の展開を考えながら行動できるはずだ。
まだまだ長い人生を、不安に押しつぶされて生きるのはつまらない。自分たちの、もしくは自分の老後を自らプロデュースするつもりで、今から準備をはじめておきたい。
※5月11日追記
5月11日に、「『おすぎとピーコ』から考えた同世代ゲイカップルの老老介護の不安を解消する方法」という記事を公開した。こちらでは、子供がいない同世代ゲイカップルや、独り身のゲイが病院に入院する際や、高齢者施設に入所する際に求められる「身元引受人」と「連帯保証人」問題に関する解決策を考えている。興味がある人は、あわせて目を通してほしい。
(冨田格)
アライアンサーズ
所在地:東京都新宿区新宿2-12-13
電話:03-6260-8637
公式サイト:https://alliancersjp.com/
在宅介護をしている人や健康が気なる人々に向けて有益な情報を配信するサイト
「健達ねっと」:https://www.mcsg.co.jp/kentatsu/
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