サブスク配信でゲイ映画「ファイアー・アイランド」ゲイの楽園を舞台に描く露悪的ボーイミーツボーイ

Netflix、Amazon Prime、Disney+、Hulu、U-Nextなど、サブスクリプション配信で映画やドラマを楽しめるプラットフォームは増える一方。

そのおかげで、日本で見られる映画やドラマの数は一挙に増加。そんな配信で見られるコンテンツの中から、ゲイが主役または重要な役割を担う作品を連続紹介する連載コラム。

6月24日にDisney+で配信が始まった、「ファイアー・アイランド」を解説する。

【動画あり】アジア人はモテ「ヒエラルキー」の壁をぶち破れるか? ゲイの楽園を舞台に描く新作ラブコメ映画『ファイアー・アイランド』

第十回「ファイアー・アイランド」

ファイアーアイランド

ニューヨーク郊外のゲイの楽園と言われる島を舞台にしたゲイたちのロマンチックコメディ「ファイアーアイランド」。

目次

・この映画を50文字以内で表してみる
・ネタバレほぼなしの作品解説
・物語
・クレジット
・ネタバレありの率直感想

この映画を50文字以内で表してみる

ファイアーアイランド

ボーイミーツボーイの露悪的ラブコメを、なんだかいい映画を見た気にさせるドナ・サマーの威力はすごい。(49文字)

ネタバレほぼなしの作品解説

ファイアーアイランド

「ディズニー」作品以外にも、「ピクサー」「マーベル」「スターウォーズ」「ナショナルジオグラフィック」、そして大人も楽しめる映画やドラマシリーズも豊富な「スター」と多彩なコンテンツが揃っているDisney+の「スター」オリジナル映画として配信がスタートした。ちなみに本国アメリカだけではHuluオリジナル作品として配信されている。

制作は、「ブラックスワン」「ナイトメアアリー」など個性的な作品を作り続けているサーチライト・ピクチャーズ。

主演のノアを演じるスタンダップ・コメディアンのジョエル・キム・ブースターによるオリジナル脚本。ジョエルが子供の頃から大好きな「高慢と偏見」をモチーフに、ニューヨーク郊外のゲイの楽園と言われる島・ファイアーアイランドを舞台にゲイだけのロマンチック・コメディを作り上げた。

ゲイ映画といってもゲイと社会の関係の中で生じる問題がテーマなのではなく、ゲイだけの特別な非日常空間で起こる恋やセックスや諍いや友情を描く。

ゲイを演じるのは、ゲイの当事者俳優たち。

ノアの親友ハウィーを演じるボーウェン・ヤンは、歴史ある人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』で、初の中国系アメリカ人であり3人目のオープンリーゲイ男性としてレギュラーキャストとなった。

ノアが気になる男・ウィルを演じるのは、TVシリーズ『殺人を無罪にする方法』でメインキャストのコナーの同性の恋人オリバーを演じたコンラッド・リカモラ。

ノアやハウィーの友人であるレズビアンのエリンを演じるのは、TVシリーズ『私はラブリーガル』で主人公のアシスタントを演じて強烈な印象を残したマーガレット・チョー、彼女はバイセクシュアルであることをカミングアウトしている。

物語

ファイアーアイランド

夏になって「ファイアー・アイランド」に行くたびに、自分たちが「ヒエラルキー」の最下層だという現実を突きつけられるアジア人ゲイのノアとハウイー。

勝ち組の「白人・金持ち・マッチョ」たちはオーシャンウォークの水上コテージを借りるが、ノアとハウイーたちは島の内陸部のあまりトレンディーではないエリア、ツナウォークに滞在する。

彼らが常宿としているのは友人であるエリンの家。ところがエリンが破産して家を売却することが決まっていると聞かされ、ノアとハウイーにとって、思いがけず今年がファイアー・アイランドで一緒に過ごす最後の夏となってしまう。

マッチョでセックス至上主義のノアは、「アジア人でオタクでデブな自分にはボーイフレンドができるはずがない」と人生を諦めてしまったハウイーが、理想の相手に出会えるよう手助けすることを決意する。

お茶会(ティーダンス)で知り合ったハウイーと医師のチャーリーが意気投合する一方で、ノアはいけ好かない金持ちグループにいるウィルのことを気になり始めるのだが…。

クレジット

ファイアーアイランド

監督:アンドリュー・アーン
脚本:ジョエル・キム・ブースター
出演:ジョエル・キム・ブースター、ボーウェン・ヤン、マーガレット・チョー、コンラッド・リカモラ ほか
2022年/105分/アメリカ
ディズニープラス:https://www.disneyplus.com/ja-jp/home

(C)2022 20th Century Studios.All rights reserved

【警告】

ここから先は、かなりのネタバレ注意です。

あらかじめご了承ください。

ネタバレありの率直感想

ファイアーアイランド

ゲイ映画というと、ゲイであることの生きづらさや周囲の理解を得られない孤独など、社会との関わりから生じる側面にフォーカスした作品が多いが、この映画はまったく違う。

「ノンケを観客としては考えていないのではないか?」というのが、観賞後に最初に感じたこと。

ゲイの楽園と言われるニューヨーク郊外の島・ファイアー・アイランドを舞台に、ここに遊びにやってきたゲイ友たちの夏の一週間を描く物語。

ゲイが脚本を書いた物語を、カミングアウトしているゲイの俳優たちが演じているので、実情を知らないノンケが想像で作り出すものとは違いかなりリアルなニューヨークのゲイ文化の一端を覗くことができる。

横に長く縦に短い特徴的な形状の島に、夏になるとなぜゲイたちが集まってくるのかといえば、それはセックスをするため。ティーダンスと呼ばれる日中のイベントから、週末のクラブでの下着パーティー、そしてそれぞれが滞在する別荘・家でのホームパーティーなど、セックスする相手を探すための機会には事欠かない。

男同士のキスは濃厚だし、クラブでの下着パーティーでは奥にあるダークルームでの性描写もしっかり描き、自分を開放して奔放に楽しむためのドラッグの描写もある。

最近日本で話題になった120人乱交も霞んでしまうような、奔放なゲイのセックスライフの露悪的な描写を見せつけられると、そんな内容とは知らないで見てしまったノンケは驚愕するか胸焼けするか、たじろぐかして途中で脱落してしまうのではないかと感じた次第。

ファイアーアイランド

とはいえ、この「ファイアー・アイランド」は露悪的な性描写がメイン物語かといえば、さにあらず。

同じ「ゲイ」でも、そこには多様性があるもの。人種、ルックス、体型、経済力、セックス観など、実にさまざま。

いわゆるスナックと称されるカウンター主体の小さなゲイバーが多い日本では、好みのタイプや年齢、体型などで集まる店が分かれ、それぞれが小さなコミュニティを形成していくのだが、これは世界でも非常に特殊な例。

日本の小さなコミュニティ内でも、モテ度や経済力などでの格差は生じるが、多様なゲイが大挙して集まるファイアーアイランドでは、もっとあからさまなヒエラルキーが存在する。「白人・金持ち・マッチョ」が最上位で、主人公のノアとハウィーのような「アジア系・貧乏」は下層クラスだ。

「高慢と偏見」をモチーフにしたこの映画では、ゲイのヒエラルキー間で生じる誤解や諍いと、それを乗り越えるロマンスが、物語のひとつの柱となっている。

ファイアーアイランド

そしてもうひとつの柱が、それぞれのセックス観の違いだ。

主人公のノアは、「アジア系・貧乏」という下層クラスでありながら、セックスするために体を鍛えてマッチョになることで自信を保っている。セックスするためにファイアー・アイランドに行く前夜も、よく知らない男を部屋に持ち帰って寝坊して船に乗り遅れそうになるというほどのセックス至上主義。

ファイアーアイランド

対するハウィーは、オタクでぽっちゃりで自分に自信がない。「君の名前で僕を呼んで」が大好きで、セックスよりも「セイ・エニシング」のようなスイートな告白をされたい、恋に恋するタイプ。

他の登場人物のセックス観もさまざまで、ハウィーのようなロマンス中心のゲイもいれば、ノア以上に奔放なタイプもいるし、無断で撮影したハメ撮り動画をSNSで晒して大勢のフォロワーを獲得するセックスを道具としか考えない悪辣なタイプもいる。

そんなセックス観の違いが物語の推進力となって、リゾートという非日常を舞台にしたボーイミーツボーイのロマコメを成立させている。

ゲイならば自分を投影できるキャラを見つけて、より深く映画を楽しむことができそうだ。

ファイアーアイランド

見ている間は楽しめて、観賞後には何も残らないというロマコメの王道的な物語。ラストシーンでなんとなくいい映画を見た気にさせてくれるのは、バックに流れるドナ・サマーの「ラストダンス」の威力か。ドナ・サマー、恐るべし。

MCUのポスクレほどのものではないが、エンドクレジットのラストにちょっとした音声の仕掛けがあるので、次のおすすめ作品表示が出てもクレジットは最後まで見た方がいいかもしれない。

ファイアーアイランド

(冨田格)

※ここで書ききれなかった話は、第二弾で書いています。
第二弾!サブスク配信でゲイ映画「ファイアー・アイランド」楽しげな映画だけど、実は結構過酷なゲイのリアル

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