HIV陽性の人気TVレポーターがカミングアウトしたことで人生が変わった話
世界エイズデーに配信した裸のメッセージ動画が話題の、米国の人気TVレポーター”カール・シュミッド”。彼がHIVをカミングアウトしたことで起きた、良いこと、そして悪いこと。さらにそのこときっかけに始まったプロジェクトを紹介する。
・HIV陽性の人気TVレポーターが世界エイズデーに裸になって伝えたこと
facebookでHIV陽性だとカミングアウト
オーストラリア出身で、現在は米国ABCネットワークでエンターテインメント・ジャーナリストとして活躍しているカール・シュミッドは、2018年に、診断を受けてから10年間の葛藤の末、HIV陽性であることをfacebookでカミングアウトした。
その時のコメントの一部を抜粋して引用する。
私は時々テレビに出るかもしれませんが、結局のところ、私は普通の男で、私たち皆が望んでいるのと同じく、友人や家族に受け入れられ、愛され、仲間に励まされたいのです。
だから私は、自分と同じような人にこう言いたいのです、”背筋を伸ばして誇りを持って”と。
みんなを幸せにすることはできないけれど、自分を幸せにすることはできる。そして、本当のことを語るのなら、そこに何も加える必要はないのです。レッテルは人が貼ったり剥がしたりするものですが、あなたの尊厳とあなたが誰であるかは、あなた自身が定義するものです。
以前は常に明確にはなっていませんでしたが、今、私は自分が誰なのか、自分が何を支持するのか知っています。
私を好きか嫌いかは、それは人それぞれでしょう。でも、HIV+(HIV陽性)のために私を疑ったことのある人たちに、こう言ってあげたい、あなたは大切な人です。あなたの気持ち、あなたの考え、あなたの感情は大切です。そして、誰にもそうでないと言わせないでください。
私はカール・シュミッド、そしてHIV陽性者です。
「U=U」の認知度が予想以上に低かった
2018年当時、カールがHIV陽性であることを知っている友人や同僚の間では、そのことが大きな問題にはなっていなかった。facebookでカミングアウトすることを決めたと話した上司は「そのことが今さら大きなニュース記事になるとは思えない」と言ったそうだ。
それは、カールの友人や、マスコミで働く人たちの間で「U=U」が認知されていたからだ。
「U=U」とは、HIV陽性であれば、治療によってウイルス量を検出不可能なレベルまで下げることができる。そして、ウイルス量が検出不能になり、治療を続ければ、性行為によってHIVをパートナーに感染させる可能性はゼロになる、ということを指す言葉だ。
今やHIVは死の病ではなく、投薬できちんとコントロールすることで長く充実した人生を送れるようになっている。
ところが、世間の反応はまったく違っていた。「U=U」も、HIVが死の病ではないことも、広く認知も共有もされていなかったのだ。
HIV陽性がスティグマとして刻まれた
カールの故郷のオーストラリアや英国でエイズが流行し始めた1980年後半から90年代初頭にかけて行われた「死神」キャンペーンのような啓発活動は、多くの人に「恐怖」を植え付けた、とカールは考えている。
そして、そのことで「HIV陽性=スティグマ(汚名・負の刻印)」になってしまい、治療の進歩で状況が変わった今も、多くの人の心にスティグマが強烈に残ったままだと。
カールの上司が言った「今さら大きなニュース記事になるとは思えない」という予想ははずれ、とてもスキャンダラスな報道をされることになってしまった。
騒ぎの渦中、カール自身もいかに内面化したセルフスティグマを自分に課していたのか、ということに向き合ったという。そこにHIVを取り巻く外的な “主流 “のスティグマを加えると、人々のHIVに対する恐怖心がこれまで以上に強くなるのも不思議ではないことも理解できた。
カミングアウトしたことで大きな変化
カミングアウトしたことが大きな騒動になるなかで、思いもしなかったことも起きていた。それは世界中のHIV陽性である人から、カールのSNSに多くのメッセージが寄せられたことだ。
カールが自分の真実に正直に向き合い生きることを選択したことは、同じようにHIV陽性であることをカミングアウトしたら身近な人がどう反応するか死ぬほど怖くて影に隠れて人生の暖かい太陽の下へ踏み出せない多くの人たちと繋がることになるとは予想もしていなかったという。
このことにより、HIV陽性であることを告げられてスティグマに苦しめられたカールが「U=U」の化学を知り考え方が変わったのと同じように、より多くの人に「U=U」を広めていく必要があると考えるようになった。
そこでHIV陰性のノンケ男性2人と組んで「+Life」というプロジェクトを立ち上げた。「+Life」を通じて、HIVに感染している人もそうでない人も、自分の名前に3つの文字とシンボル「HIV+」がついていても、それが決して束縛したり定義したりする必要はないことを世界に示していこうと願っているそうだ。
話題を呼んだ世界エイズデーに公開した裸のメッセージ動画も「+Life」プロジェクトの一環だ。
最後に「+Life」プロジェクトを進めるカールの言葉を紹介しよう。
「『あなたはHIV陽性です』という言葉が、もはや”宣告”を意味しない日が来るように、私がこの物語の変化と進化の一翼を担えればと思います」
「+LIFe」公式サイト:https://pluslifemedia.com/
(冨田格)
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