【ゲイ用語】日本の「ジャニ系」米国では「トゥインク」その語源と意味は
あるカテゴリーに属する人たちの間だけで流通する「隠語・スラング」は、それを使うことで仲間意識を強める効果がある。ゲイにもたくさんの「隠語・スラング」が存在し、さらに新たに誕生し続けている。今回は、日本のゲイの間では「ジャニ系」と呼ばれるタイプの若い男性が米国のゲイ用語ではなんと呼ぶのか、そしてその言葉の由来や使われ方を紹介する。
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「ジャニ系」はジャニーズが語源
日本のゲイの間では「ジャニ系」と呼ばれるカテゴリーが存在している。これは若くて(24歳以下)スリムで体毛がなく、成人しているが顔も体も少年っぽさが残るタイプを指すと考えられている。「ジャニ系」とは巷で話題の「ジャニーズ」から取られたものだ。
筆者がゲイバーに行き始めた1980年代半ばには「ジャニ系」というカテゴリーがすでに存在していた記憶があるのだが、いつ頃から「ジャニ系」という隠語が生まれたのかはさだかではない。
その語源も、初代「ジャニーズ」から来ているのか、それとも1970年代前半に誕生し、フォーリーブスや郷ひろみのバックダンサーとしてテレビで露出する機会が増えた「ジャニーズ・ジュニア」から来ているのかもさだかではない。
いわゆる「隠語・スラング」であるゲイ用語は、いつしか広まっていくもので、その語源や定義も人によって認識に違いがあることが珍しくない。とはいえ「ジャニ系」は、今の嵐やTOKIOやKinki kidsのような元美少年の”おじさん”ではなく、なにわ男子やジャニーズJr.などの少年の雰囲気がある男を指すことは間違いない。
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「トゥインク」の語源は甘い菓子?
米国にも「ジャニ系」のような意味をもつゲイ用語が存在する。それが「トゥインク」だ。
アーバン・ディクショナリーによると、「トゥインク」とは通常、「魅力的で少年のような資質を持つ同性愛者の男性」とされている。一般的に18歳から25歳で、若くて白人のファッショナブルな男性」と考えられている。
「ジャニ系」と大きく異なるところは、その語源がかなり曖昧であるということだ。
最もポピュラーな説は「トゥインク(Twink)」は「トゥインキー(Twinkie)」の短縮形であり、ホステス社のスナックケーキ「トゥインキーズ」から取られたというものだ。ジャンクなスナックの代表である「トゥインキーズは、「白くて、甘くて、クリームたっぷりで、栄養価はない」と言われており、これが語源だとするとちょっと侮蔑的なニュアンスが感じられる。
実のところ「トゥインキーズ」と米国のゲイ・コミュニティには、暗い歴史がある。
ゲイの活動家で政治家のハーヴェイ・ミルクを暗殺した罪で有罪判決を受けた男は、殺害当時「自分は精神状態が低下していた」と主張。その証拠として、「トゥインキーズ」のような不健康な食品を大量に摂取していたことを挙げた。
このような突拍子もなくありえない法的抗弁を表す「トゥインキー・ディフェンス(Twinkie defense)」という法律スラングまで存在するそうだ。
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見下す意味合いからの変化
他の「トウィンク」の語源かもしれないという説を見ていこう。
「トウィンク」は「トウィンクトーズ(twinkletoes)」の略語ではないかという説もある。1919年に発表された同名の小説は、「トゥインク」というあだ名で呼ばれる若い女性ダンサーの物語を中心に描かれている。
1972年に出版されたゲイのスラングをまとめた解説本『The Queens’ Vernacular(オネエの方言、という意味)』では、「トウィンクトーズ」を「女々しい人」と表現している。
1975年頃にはレザーとSMカルチャーの専門誌『ドラマー・マガジン(Drummer Magazine)』に、「トウィンク」という言葉が掲載される。その意味は、SM関係における「服従者」または「マゾヒスト」と定義されていた。
「トゥインク」が「女々しい」「従順な」から「薄毛で、毛がなく、若い」へとどのように進化したのかは定かではないが、1978年に行われた「マレディクタ」と呼ばれる言語調査では、「トゥインクルトゥ」という言葉が「若々しく、女々しい若い男性」と関連づけられている。
ゲイの一部でしか流通していなかった「トゥインク」が、一気にメジャーなゲイ用語となったのは2000年代初頭にかけてインターネットの発達によるものが大きい。
ゲイビ動画サイトは、白人で若くて体毛のないスリムな男性たちを「トゥインク」というカテゴリーで括った。そのカテゴリーに大量の動画が溢れかえったことで、そう時間をおかずに「トゥインク」はゲイ用語として定着し、やがて主流メディアにまで登場するようになった。
他にも、「トゥインク(TWINK)」は「Thin(細い) White(白人) Into No Kink(変態じゃない)」の頭文字をつなげたものだと主張する人もいるようだ。
現在では「トゥインク」はゲイ用語になくてはならない存在となり、「ベア(熊系)」や「ダディ(おやじ・おじさん)」の対極に位置する、「オシャレが好きで細く、どこか女性的な雰囲気も備えた若者」というイメージで定着している。
男性的でマッチョなことに価値を見出すカテゴリーのゲイからは見下す意味で使われることもあるが、「トゥインク」を好む人や「トゥインク」同士で使う場合には見下すような意味合いはない。
一部で使われていたゲイ用語が多くのゲイに広まり使われていく過程で、その言葉の持っていた意味が変わってくるのは、日本のゲイ用語とも通じる部分がある。
筆者が初めてゲイバーのスタッフの呼称「店子(みせこ)」を聞いたのは昭和の終わり頃だったが、当時は少々侮蔑の意味合いが込められていた。客がゲイバーの店員を下に見るような、嫌らしい風潮があったからだ。
ところが「店子」という言葉が広まっていくと、侮蔑の意味合いは消えごく普通にゲイバーのスタッフを指すものへと変わっていった。
「ジャニーズ事務所」が名称を変えたことで、ゲイ用語としての「ジャニ系」がどうなっていくか注視していきたい。10年後にゲイ・デビューする世代には「ジャニーズ」自体を知らない子もいるだろうから、「ジャニ系」に代わる新たなゲイ用語が誕生する可能性は高いと考えられる。
※参考記事:QUEERTY
(冨田格)
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