サブスク配信でゲイ映画「ストーンウォール」もし見るなら知っておくべき問題点

Netflix、Amazon Prime、Disney+、Hulu、U-Nextなど、サブスクリプション配信で映画やドラマを楽しめるプラットフォームは増える一方。

そのおかげで、日本で見られる映画やドラマの数は一挙に増加。そんな配信で見られるコンテンツの中から、ゲイが主役または重要な役割を担う作品を連続紹介する連載コラム。

第七回「ストーンウォール」

ストーンウォール

プライドパレードの原点となった「ストーンウォールの叛乱」を、ローランド・エメリッヒ監督が映画化。アマゾンプライムビデオ、U-NEXTでサブスク配信中。

目次

・この映画を50文字以内で表してみる
・ネタバレほぼなしの作品解説
・物語
・クレジット
・ネタバレありの率直感想

この映画を50文字以内で表してみる

ストーンウォール

おすすめはしないがもし見るなら事実を改変した問題点を理解した上で「別物の何か」として楽しむべき映画。(50文字)

ネタバレほぼなしの作品解説

ストーンウォール

毎年6月の最終日曜日にニューヨークで開催される「ニューヨーク・シティ・プライド」。1970年に始まったこのパレードが、世界のプライド・パレードの発祥となった。

プライド・パレードが開催されるきっかけとなったのが、その前年1969年6月に起きた「ストーンウォールの叛乱」だ。ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」に警察が立ち入り検査をしたことに端を発して3日間に渡って同性愛者たちが暴動を起こした。

その「ストーンウォールの叛乱」から一年後に「ニューヨーク・シティ・プライド」が始まった。その輪は世界中に広がり、6月の週末は世界のどこかでプライドパレードが開催されるようになり「プライド月間」と呼ばれるようになった。

「スターゲイト」「インディペンデンス・デイ」「GODZILLA」「デイ・アフター・トゥモロー」「2012」など超大作映画の監督であるローランド・エメリッヒは、ドイツ出身のオープンリーゲイ。

ストーンウォール
ローランド・エメリッヒ監督

LAのゲイ&レズビアン・センターを訪れたエメリッヒは、ホームレスの40%がセクシュアル・マイノリティの若者であるという事実に衝撃を受け後、ホームレスのセクシュアル・マイノリティの若者(ストリート・キッズ)への援助に力を入れるようになる。

そんなエメリッヒが「ストーンウォールの叛乱」を背景に、架空のゲイの青年を主人公にして作り上げた低予算の映画だ。

アメリカでは2015年9月に公開、日本では2016年12月にミニシアターで小規模公開された。

物語

ストーンウォール

アメリカ・インディアナ州の保守的な地方で高校生活を送っていたダニーは、同じアメフト部のエース選手ジョーと性的関係があることがバレ、一方的に悪者にされてしまい、厳格な父に拒絶されて居場所を無くす。

ダニーは反発して家出をしてニョーヨークに向かう。ダニーがニューヨークに向かった理由は、ニューヨークのコロンビア大学に進学することが決まっていたからだ。しかし、家出してきたダニーは行く宛もなく、ゲイタウンであるクリストファー・ストリートにたどり着く。

身寄りもない街でひとりぼっちのダニーに、街娼(ストリートキッズ)のレイが声をかけてくる。

そして、レイの仲介で仲間のストリートキッズたちと仲良くなっていく。ダニーはコロンビア大学の奨学金を受けるための書類を送ってほしいと実家に電話するが、厳格な父に拒絶される。

前途多難な状態でありながらも、ダニーは大学へ入学するための手段を見つけ、居候させてくれる彼氏とアルバイト先も見つかり、なんとか前に進めそうな状況を作ることができたのだが、クリストファー・ストリートには暗雲が近づいてきていた。

クレジット

監督・制作:ローランド・エメリッヒ
脚本:ジョン・ロビン・ベイツ
出演:ジェレミー・アーヴァイン、ジョニー・ボーシャン、ジョーイ・キング他
配給:アット エンタテインメント
2015年/アメリカ/129分

U-NEXT:https://video.unext.jp/title/SID0041660
アマゾンプライムビデオ:https://amzn.to/3G94oGt

【警告】

ここから先は、かなりのネタバレ注意です。

あらかじめご了承ください。

ネタバレありの率直感想

ストーンウォール

この映画を解説する前に、「ストーンウォールの叛乱」について知るところから始めたい。

1960年代のアメリカでは、性的少数者の人権が認められていなかった。そして、同性間の性交渉を禁止する法律(ソドミー法)が、イリノイ州以外の全州で維持されていた。

さらに、同性愛者に酒を提供することが違法とされ、度々警察がゲイバーに立ち入り検査をしており、3人以上の同性愛者グループに酒を提供すると恣意的に酒類販売免許を取り上げられていた。

そのため多くのゲイバーは無免許営業の非合法なものとなり、マフィアと関係を持たざるを得なくなっていった。

その後、穏健派の活動団体マタシン協会の働きかけに耳を傾けた共和党リベラル派のジョン・リンゼイ市長の方針で、性的少数者への風向きが変わり恣意的な酒類販売免許の取り上げはなされないようになった。

しかし、舞台となる「ストーンウォール・イン」は酒類販売免許を持っていない店の一つで、未成年者の出入りもあり問題視されて警察の立ち入り検査が度々行われていた。

立ち入り検査で警察に拘束されるのは、酒を提供した側の非白人の従業員と、異性装の者、IDを持たない者だった。

ストーンウォール

こういう状態が続いており、店に集う同性愛者の中に不満が蓄積し続けていたなか、1969年6月28日にまた警察が「ストーンウォール・イン」に立ち入り検査をしたことをきっかけに数日間にわたる暴動が起きた。これを「ストーンウォールの叛乱」と呼んでいる。

非常な混乱状態にあっただろうし、突発的に始まった騒動を俯瞰して見ていた人がいるわけでもない。騒動の口火を切ったとされる人は複数名いるし、今となっては真相は藪の中ではあるが、当事者の間で語り継がれていることをまとめてみる。

ストーンウォール

騒動のきっかけとなったのは、トルコ系トランスジェンダーのシルビア・リベラ氏と親友の黒人のドラァグ・クイーンであるマーシャ・P・ジョンソン氏と言われている。

警察に連行されそうになった男装のレズビアンが暴れて、それをきっかけに店の前にいた群衆が蜂起したという説もある。

いずれにしても、警察に連行されるのは異性層か非白人であったので、叛乱のきっかけを作ったのはそのどちらかであるというのは、説得力がある。

ストーンウォール

ところが、この映画「ストーンウォール」は、架空の白人青年ダニーを主人公に据えたことで、叛乱のきっかけを作る役割をダニーにやらせてしまった。

その理由をエメリッヒ監督は「この映画はセクシャルマイノリティ当事者に向けてのみ作ったのではなく、ストレートの人に向けても作ったものだ。ダニーの存在は、より多くの観客を惹き付けるために必要だ」と語っている。

この考えは、ヒットを期待されるハリウッド超大作映画を作り続けてきたエメリッヒ監督らしいとは思うのだが、この改変によって「ストーンウォールの叛乱」の根本的理由が観客には伝わらなくなってしまった。

ダニーという青年は、たしかに保守的な地元ではゲイであることを理由にひどい目に遭ったのは事実だが、クリストファー・ストリートに立った時点で、彼の存在は完全な勝ち組に変わっていたのだから。

ダニーは、ハンサムな白人青年で、アメフト部出身の爽やかな体育会系。しかも、コロンビア大学に入学することも決まっている。客や警察の暴力に遭いながらも体を売るしか生きていく術がないストリートキッズたちと仲良しごっこをしても、所詮、立場が違う存在。売春の真似事をする際でも、周りの子たちよりも高額が約束される。

ストリートキッズのリーダー格のレイはじめ、周囲は何かとダニーの面倒を見てくれるし、しまいには居候させてくれる彼氏が見つかり、それまで面倒みてくれたストリートキッズとは疎遠になる。

ストーンウォール

しかし、運命の1969年6月28日に彼氏の浮気を知ったダニーが怒って彼氏の家を飛び出しトラブルに巻き込まれるやレイが助けてくれて、「ストーンウォールイン」に戻ってくる。そこで警察の立ち入り検査に遭い、騒然としたなか怒りのダニーがレンガを投げつけたことをきっかけに暴動が始まる。

これでは、語り継がれている話を知らないまま見ている観客は、甘やかされた勝ち組白人青年が彼氏の浮気に怒ったことがきっかけで「ストーンウォールの叛乱」が始まった、と理解してしまいそうだ。

一晩さんざん暴れまくったダニーは、朝になると我に帰り、レイに「君とは住む世界が違う」となんとも失礼な暴言を吐き、クリストファーストリートから去っていこうとする。そんなダニーに怒るでもなく「アンタと私は兄弟みたいなものよ」とレイは優しく声をかけるという驚愕の事態が描かれる。

一年後、めでたくコロンビア大学の生徒になったダニーは地元に帰り、自分を悪者にしたジョーに会って「やっぱり君のことが好きだ」とメソメソ泣き、「ニューヨーク・シティ・プライド」に行ってはストリートキッズたちに暖かく迎え入れられて胸をはってパレードを歩くという、共感するところが何もないシーンで映画は終わる。

「ストーンウォールの叛乱」に対する誤解しか招かないので、見ることはおすすめはしないが、もし見るならばダニーは架空の存在だということを認識して実際のストーンウォールとは「別の何か」を描いた映画として見てほしい。

映画のなかでこれだけダニーを甘やかしまくるということは、多分エメリッヒ監督の好みのタイプなんだろうな、と思った。

(冨田格)

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