ゲイに目覚めた青年ボクサーの葛藤を描く新作ゲイ映画「パンチ」が見たい

ラグビーやアメフトなどでカミングアウトする選手もちらほら出てきてはいるものの、依然、男性的なマッチョなスポーツと”ゲイ”の相性は決していいとは言い難い傾向がある。ひたすら強くなることを目指す青年ボクサーが男に目覚め生じる葛藤を描く、ニュージーランドの新作ゲイ映画を紹介する。

人の心に巣喰う消えないゲイへの忌避感

Punch

ラグビー、アメリカン・フットボール、サッカー、柔道など、マッチョで男臭い競技でもカミングアウトする選手が少しずつ登場して、受け入れられる世の中になりつつあるが、社会全体が同じ傾向になっているとは言い切れないだろう。

20年少し前までは、カミングアウトしたことでスポーツのキャリアも人生も破綻してしまった悲惨な例はたくさんある。一見、ゲイであることが何の問題もなく受け入れられ、カミングアウトすることが賞賛されるような雰囲気が醸成されつつあるように見えても、人の心の中に巣食うゲイへの忌避感が消滅したとは言い切れない。

ニュージーランドの地方都市を舞台にした新作映画『パンチ(Punch)』は、そんな現実を描いた作品だ。

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映画『パンチ(Punch)』の物語

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主人公のジムは、ニュージーランドの小さな町に住む17歳のボクサー。厳しいコーチである父親のスタンのもとトレーニングを積み重ねてきたジムは、ボクシングの才能に恵まれたゴールデンボーイであり、早くもプロに昇格する試合を控えている。

悪名高いアルコール依存症でもあるスタンは、地方の狭い世界の残酷さも身に染みて感じており、ジムがプロとしての地位を獲得して2人で街を離れ広い世界に出て行くという願いに、人生を捧げてきた。

その町の海岸にある古い小屋に、マオリ族の青年ウェトゥが暮らしている。町の人は彼がゲイであることで迫害しているが、ウェトゥは過酷な状況でもタフに生きている。雑種の犬を連れた彼は、ミュージシャンになるために町を出ることを夢見ている。

自分がなぜ闘うのかということに疑問を抱きはじめたジムは、ウェトゥに興味をもち接近していく。そして、自分のセクシュアリティに気づきはじめるのだ。

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寛容の皮の下に存在する感情

一見、ゲイであることが受け入れられているように見える世界だが、この映画は人々が装う寛容の皮を剥いで、表面下に存在するものを見せてくれる。

都会の華やかなプライド・パレードには縁のない地方都市でゲイであることを自覚したはジムとウィトゥは、孤立や偽善、小さな世界のマッチョなスポーツの残忍さ、そして匿名でなされるゲイ・バッシングを乗り越えていかなければならない。

ジムは、ゲイであることの本当の意味を見つけるためにつまずきながら、強さとヒロイズムとはあまり関係がないことを理解することを余儀なくされる。

日本の地方でも同じような環境はまだまだあるはずだ。国を超えて共感する人が少なくないだろう映画『パンチ(Punch)』は、長編映画監督デビューとなるウェルビー・イングス監督が脚本も手がけた。

ジムを演じるのは新人俳優のジョーダン・オオスターホフ、スタンはイギリスの俳優であり監督のティム・ロスが演じている。

2022年のタリン・ブラックナイト映画祭でアーリープレミアされ、2023年のパームスプリングス国際映画祭に正式出品され、非常に高い評価を得ている。特にティム・ロスの演技は賞賛されているようだ。

アメリカでは3月10日より劇場公開、さらにデジタル、オンデマンドでの配信も決定している『パンチ(Punch)』。日本でなんらかの方法で見られるようになることを熱望する。

ニュージーランド・フィルム・コミッション公式サイト

※参考記事:COLLIDER

■米国版予告編

■ニュージーランド版予告編

(冨田格)

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