「男同士の愛を描く映画を見たい!」日本公開熱望する7本の新作ゲイ映画
現在、『世界は僕らに気づかない/Angry Son』『エゴイスト』『二十歳の息子』と3本の日本映画が上映中。4月には『ノック 終末の訪問者』と『ザ・ホエール』と2本の公開が予定されており、ゲイが主役となる映画の公開が相次いでいる。
しかし、世界各国では他にも多彩なゲイ映画が作られている。日本でぜひ公開してほしい新作ゲイ映画7本を、まとめて紹介する。
目次
本当の”自分”が覚醒した青年ボクサーの葛藤
『パンチ(Punch)』
主人公のジム(ジョーダン・オオスターホフ)は、ニュージーランドの小さな町に住む17歳のボクサー。厳しいコーチである父親のスタン(ティム・ロス)のもとトレーニングを積み重ねてきたジムはボクシングの才能に恵まれたゴールデンボーイであり、早くもプロに昇格する試合を控えている。
悪名高いアルコール依存症でもあるスタンは、地方の狭い世界の残酷さも身に染みて感じており、ジムがプロとしての地位を獲得して2人で街を離れ広い世界に出て行くという願いに、人生を捧げてきた。
その町の海岸にある古い小屋に、マオリ族の青年ウェトゥが暮らしている。町の人は彼がゲイであることで迫害しているが、ウェトゥは過酷な状況でもタフに生きている。雑種の犬を連れた彼は、ミュージシャンになるために町を出ることを夢見ている。
自分がなぜ闘うのかということに疑問を抱きはじめたジムは、ウェトゥに興味をもち接近していく。そして、自分のセクシュアリティに気づきはじめるのだ。
2022年「タリン・ブラックナイト映画祭」でアーリープレミアされ、2023年「パームスプリングス国際映画祭」に正式出品。アメリカでは3月10日より劇場公開、さらにデジタル、オンデマンドでの配信も決定している。
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五輪強化合宿で生まれる性的緊張感
『ザ・スイマー(The SWIMMER)』
舞台は、イスラエルのオリンピック選手を養成するための合宿施設。競泳部門は厳しいコーチのディマが教えている。
物語は、エレズ(オマー・ペレルマン・ストライクス)が合宿に送り込まれるところから始まる。この合宿にはエレズを含めて5人の水泳選手が参加しているが、この中から一人だけが「オリンピックへの切符」を掴みチーム・イスラエルのメンバーになれるのだ。
5人の中でも能力が抜きん出ているエレズはオリンピック出場の可能性はかなり高く、そのエレズと互角に争える相手がネヴォ(アサフ・ヨナス)だ。当然、お互いに意識し合うのだが、同時に二人の間には能力が秀でた者同士の絆が生まれ仲良くなっていく。
しかし、エレズの心の中にはネヴォに対して友情以上の激しい想いが芽生えていた。いつしかエレズとネヴォの間には、性的緊張が生まれて行った。
二人の関係を危険視するディマや、同性愛嫌悪をあからさまにする他の選手たち、そしてハードなトレーニングを積み重ねながら物語はクライマックスへと向かっていく。
『ザ・スイマー』は2022年秋に米国で限定公開された。
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真実の絆を手放してしまった男の後悔
『ベネディクション(Benediction)』
イギリスのインディーズ系の映画監督であり脚本家のテレンス・デイヴィスが、実在したゲイの戦争詩人ジークフリード・サスーンを描いた伝記恋愛ドラマ。
第一次世界大戦に従軍したサスーン(ジャック・ロウデン)は、戦場で兄弟を失うも多くの兵士を救い、その勇気によって軍十字章を授与される。しかし、戦争に疑問を抱いたサスーンは、痛烈な反戦の手紙を書き、新聞に発表し、下院で読み上げたことから平和主義者の烙印を押される。
平和主義から回復するためにとサスーンはエジンバラの戦争病院に送り込まれるのだが、そこで運命の詩人ウィルフレッド・オーウェンと出会い、初めてロマンチックな愛の萌芽を感じる。しかし、オーウェンと曖昧なまま別れてしまったことが、その後何十年もサスーンを苦しめることになる。
その後サスーンは、『ダウントン・アビー』と同じ時代のイギリス社交界で、性的には貪欲であり人間としては最悪な男たちと関係を持っては傷つくことを繰り返していく。そして、敬虔なカトリック信者でもあった彼は女性と結婚する道を選択するのだが。
『ベネディクション』は、2022年初夏に英国と米国で公開された。
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職人と弟子、死にゆく妻の三角関係
『青いカフタン(Le Bleu du caftan)』
モロッコのメディナ(旧市街)で伝統的な民族衣装であるカフタン屋を営む、ハリムとミナの夫妻。彼らは、要求の多い客たちのニーズに応えるべく、ハリムの弟子となる若者ユセフを雇うことにする。
刺繍と仕立ての技術をハリムから学ぶためユセフは献身的に働くのだが、しだいにハリムとユセフの間に感情の化学変化が生じ始める。ミナは徐々に、ハリムがこの青年の存在にどれほど心を動かされているかに気づいていくのだが、ミナの体は病魔に蝕まれ始めていた。
この作品が2作めとなるマリアム・トゥザニ監督は、こう語っている。
「モロッコのメディアで性的マイノリティの人々について言及する記事を目にするようになりました。この映画が話題になる以前は、まったく目にすることがなかったのです。言い換えれば、社会やメディアの目には性的マイノリティが存在し始めたということで、これは大きな前進だと思います。同時に、まだまだ遅れている面も大きいと思います」
第95回アカデミー賞の国際長編映画賞にモロッコから正式出品された『青いカフタン』は、2月10日より米国の一部の劇場で公開。
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限られた時間のなか急接近する2人の男
『オブ・アン・エイジ(Of An Age)』
ダンスに打ち込むセルビア移民の青年と彼のダンスパートナー(女性)の兄との間で生まれた24時間の恋を描く。
舞台は、1999年の夏、メルボルンの郊外。セルビア人移民のコル(エリアス・アントン)は翌日のダンス大会に向けて準備をしていた。そこに、ダンスパートナーである親友のエボニー(ハティ・フック)が助けを求めてくる。彼女は二日酔いで、自宅から遠く離れた見知らぬ街で目覚めたというのだ。
コルは車を持っているエボニーの兄アダム(トム・グリーン)に頼み、2人でエボニーを迎えるためにメルボルン郊外に向かう。交通渋滞に巻き込まれながら2人の間でさまざまな会話が交わされ、少しずつお互いの感情が化学反応を示しはじめ、強い絆で結ばれていく。
しかし、コルは翌日のダンス大会を終えたら南米へ旅立つことが決まっており、2人の恋には24時間という時間の制約が立ちはだかっていた。
そして数年の時を経て、エボニーの結婚式に参列したコルはアダムと再会する。
2022年「メルボルン国際映画祭」でオープニング上映され、主要な賞を受賞。3月にオーストラリアでの公開が決定している。
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激動の時代に父として男として生きたゲイの苦悩
『フェアリーランド(Fairyland)』
大学卒業後にラジオ局でプロデューサーをしていたアリシア・アボットが亡き父と、70年代後半から80年代にかけての西海岸のゲイ・コミュニティの状況を描いた回顧録『フェアリーランド』を映画化。
時は1978年、母親を交通事故で亡くしたアリシアは詩人で活動家の父スティーブ(スクート・マクネイリー)と共にサン・フランシスコに引っ越してくる。
1969年のストーンウォールの反乱以降、70年代に一定のパワーを持ち始めたゲイ・コミュニティがエイズの嵐に襲われていく時代に、スティーブは、子育てと、愛するパートナーを見つけたいという自分の欲求のバランスをとるのに苦労していく。
複数の男たちと出会い恋愛関係になっていくものの、アリシアと共に家族になれる相手を見つけるのは容易いことではない。そしてスティーブもいつしかエイズの病魔に取り憑かれていく。成長したアリシアを、『コーダ あいのうた』のエミリア・ジョーンズが演じる。
『フェアリーランド』は、1月に開催の「2023年サンダンス映画祭」で初上映された。
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実在の女装プロレスラーの愛と人生
『カサンドロ(Cassandro)』
メキシコのプロレス「ルチャ・リブレ」のレスラー(ルチャドール)は、ベビーフェイスの「テクニコ」とヒールの「ルード」に分かれて闘うことが基本だが、さらに「エキソティコ(exótico)」という女装でリングに上がるレスラーもいる。
”変わり者”を意味するエキソティコは、マッチョな男たちの世界にスパイスを効かせ笑いをとる道化役としての存在している。
いわゆる、色物と捉えられているエキソティコだが、初めてチャンピオン王座に就いたのが「カサンドロ」ことサウル・アルメンダリスだ。エキソティコにはノンケやトランスジェンダーもいるが、アルメンダリスはゲイ。女装をするのはリングに上がるときの「ギミック」としてだけだ。
レスラーとして今ひとつ目立てなかったアルメンダリスが、女装をしエキソティコとしてリングに上がることで輝きだす。レスラーとして、そしてゲイとしてアルメンダリスの愛と人生を描く。
『カサンドロ』は、1月に開催の「2023年サンダンス映画祭」で初上映、今年Amazonプライムビデオで配信予定。
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劇場公開でも配信でも、どんな方法でも構わないので、日本で1本でも多くのゲイ映画を見られるようになってほしい。ジオ倶楽部では、これからも世界の新作ゲイ映画の情報を紹介していく予定だ。
(冨田格)
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