海兵隊の黒人ゲイ新兵を描く『インスペクション ここで生きる』8月公開
昨秋全米で公開され大きな話題を呼んだ映画『インスペクション ここで生きる』は、海兵隊に入隊した孤独な黒人ゲイの新兵を描く物語。ゲイであることを理由に母から家を追い出され、孤独に暮らしてきた青年が、海兵隊のブートキャンプで成長していく実話をもとにしたこの映画、8月4日より、日本公開が決定した。
海兵隊を経験したゲイ監督の自伝的作品
『ムーンライト』『ミッドサマー』『エブエブ』など話題作を次々と公開する、今もっとも勢いを感じさせる配給会社の”A24”が、昨秋全米で公開した新作映画が『インスペクション ここで生きる』だ。
ゲイをカミングアウトしているエレガンス・ブラットン監督の自伝的初監督作品の物語を、公式サイトより引用する。
ゲイであることで母に捨てられ、16歳から10年間ホームレス生活を送っていた青年エリス・フレンチ(ジェレミー・ポープ)。どこにも居場所を許されず、自らの存在意義を追い求める彼は、生きるためのたったひとつの選択肢と信じて海兵隊への入隊を志願する。
だが、訓練初日から教官の過酷なしごきに遭い、さらにゲイであることが周囲に知れ渡るや否や激しい差別にさらされてしまう……。
理不尽な日々に幾度も心が折れそうになりながらもその都度自らを奮い立たせ、毅然と暴力と憎悪に立ち向かうフレンチ。僕が僕のままで在るために、自分の意志でここに居る――。孤立を恐れず、同時に決して他者を見限らない彼の信念は、徐々に周囲の意識を変えていく。
この映画は黒人でゲイのロッキーだ
『インスペクション ここで生きる』を “黒人でゲイのロッキー “だと表現するブラットン監督は、”Marine Corps Times”にこう語った。
「私は16歳のときにゲイであることを理由に家を追い出され、その後10年間はホームレスとして過ごしました。自分はまったく価値のない人間だと本気で思っていましたが、幸いなことに、教官が『お前の人生は重要だ、お前は重要だ、お前は重要だ』と言ってくれたのです。
今は政治的に、左翼と右翼が実際にお互いの話を聞くよりも、お互いの違いから叫び合っているような時代だと思います。海兵隊で私は、自分とはまったく異なる人たちの話を聞くだけでなく、その人たちと有意義な人間的つながりを築く方法を学びました。
この機能不全の家族(海兵隊の仲間)のおかげで、自分を抑圧するようにと命じられながらも、自分をもっと愛せるようになりました」
過酷すぎる状況にも愛は芽生える
この自伝的映画の着想を得て企画を進めていたブラットン監督は、数年前にニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、こう語っている。
「自分の人生、そして『インスペクション ここで生きる』の脚本は、いわば『フルメタル・ジャケット』と『ムーンライト』の出会いなんだ」
スタンリー・キューブリック監督作品『フルメタル・ジャケット』は、海兵隊のブートキャンプ(新兵訓練所)で、徹底的な叱責と罵倒、殴る蹴るの体罰、連帯責任による懲罰、そしていじめなど、新兵が追い詰められる過酷な状況を描いた作品だ。
そんな過酷なブートキャンプにおいて、黒人でかつゲイであることで主人公のエリスはさらに厳しい状況におかれることになる。しかし過酷なだけではない、エリスはブートキャンプで恋心を抱くようになる男と出会うのだった。
カジュアルなホモフォビアと暴力的なホモフォビアが蔓延する海兵隊のブートキャンプだが、そこを体験したブラットン監督は同時に、ホモフォビアとは相反するようホモセクシュアルな空気も感じ取ったようだ。
肉体を鍛え続ける男だけの特殊な空間だからこそ醸成される、過酷さと相反する愛情や優しさ。今まで映画で描かれる機会がほとんどなかった海兵隊の黒人、そしてゲイの新兵の物語。8月4日(金)の公開が待ち遠しい。
『インスペクション ここで生きる』
原題:THE INSPECTION
監督・脚本:エレガンス・ブラットン
出演:ジェレミー・ポープ、ガブリエル・ユニオン、ラウル・カスティーヨ、マコール・ロンバルディほか
8月4日(金)TOHOシネマズシャンテほかで公開
公式サイト:http://happinet-phantom.com/inspection/
©2022 Oorah Productions LLC.All Rights Reserved.
※参考記事:The New York Times/instinct
(冨田格)
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