米・州立軍事学校水泳部主将がカミングアウトするまでの逡巡と意外な反応
軍事学校の体育会、想像するだにマッチョで保守的な世界で”ゲイ”の居場所がなさそうに思えるが、アメリカの人々の意識は大きく変わってきている。約5年前のことになるが、バージニア州立軍事学校水泳部キャプテンのカミングアウト・ストーリーを紹介する。
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州立軍事学校とはどんな学校?
バージニア州立軍事学校水泳部のキャプテンであったジョン・キムは、チームのリーダーとして模範を示す必要があると考えカミングアウトを決意したという。
まずはバージニア州立軍事学校とはどんな学校なのか、「アメリカ留学のための大学情報サイト『アメリカ大学ランキング』」から学校紹介を引用する。
1839年創立。南北戦争中は、南軍の兵士の教育に大いに貢献した。アメリカの軍士官候補生を育成するエリート校。
常にユニフォーム着用や寝食における団体生活における規律が厳しい。軍士官候補生の養成といえども、リベラルアーツ教育に重点を置いている。小規模精鋭の大学で、リベラルアーツ分野の各専攻に加え、小規模大学としてはエンジニアリングの専攻も充実している。
大学の特質上、副専攻にリーダーシップ研究という分野もある。軍士官候補生育成という意味で、共同生活の重要性からか、学生全員が寮生活をしている。
https://www.ryugaku.ne.jp/search/data?ipeds=234085
いかにも保守的、かつ共同生活となると、ゲイだとカミングアウトするのは難しそうなイメージなのは事実だ。
キムは学校での日常生活を、こう語っている。
「私たちの毎日は、他の大学と違いとても規則正しいものです。午前7時からの朝のフォーメーションに始まり、午前8時から午後4時まで授業を受け、午後4時から午後6時45分まで水泳の練習をします。
その後、午後7時からイブニング・フォーメーション、そして夕食です。部屋に戻ると午後8時です。それから宿題が終わるまでは、勉強の時間です」
授業は、専攻の授業からROTC(予備役将校訓練課程)の授業、士官候補生期間中のリーダーシップの授業まで、さまざまだという。
自分が誠実でなければ人も誠実でいてくれない
ジョン・キムはチームのメンバーにカミングアウトする前夜のことをこう語っている。
「学校での授業と水泳の練習で一日中疲れ果て、自分の部屋に座っていた私は、様々なことが頭をよぎっていました。
チームメイトはどんな反応をするのだろう? カミングアウトした後は、私にどう接するのだろう? 学校関係者はどう思うだろう? 家族のどんな反応をするだろう? ルームメイトは何て言うだろう?
そんなことを考えながらも、『明日こそカミングアウトしよう』と自分に言い聞かせていました」
自分の抱えるモヤモヤした思いを、キムは高校時代から仲のいい元同級生の女子にメールを送った。すると彼女からは「人生は他の誰かのふりをするには短すぎるよ」と返信が来た。
2017年、キムは45名の部員がいる「男女VMI水泳チーム」のキャプテンに選出された。チームのキャプテンとして、チームメイトやコーチと絆や団結力を高めることに力を注いできたという。
その過程でキムはこう考えるようになった。
「もし私がコーチやチームメイトに誠実でなかったら、どうして他の人が私に対して誠実でいることを期待できるでしょう? だから、私はチームにカミングアウトしようと思ったのです。今こそ本当の自分でなければならないと考えました」
緊張の末にカミングアウトをする
2017年10月11日、キムはいつもより少し早く練習場に到着し、2人のコーチがデッキに降りてくるのを待った。今シーズンから新任のヘッドコーチとは、まだそんなに親しい間柄ではなく緊張しながら待っていた。
やってきた2人のコーチにキムは、「私はシーズン初日からこのことを伝えようと思っていましたが、なかなか決心がつかず、やっと伝える準備ができました…私はゲイです」と伝えた。
するとコーチたちからはとても好意的な反応がかえってきて、「必要なサポートは惜しまない」と言われた。そこでヘッドコーチにに、チームメンバーに伝えてもいいかと尋ねると、賛成してくれた。
練習を始める前にチームメンバーを集めて、キムは話し始めた。
「前から伝えようと思っていたことがあるんだ。君たちのことをチームメイト以上の友人であり、兄弟姉妹だと思っているからね。実は、僕はゲイなんだ」
チームメイトからざわめきが聞こえ始め、やがて歓声が上がった。チームメイトから背中をポンポンと叩かれ祝福され、雲の上にいるような気分になったという。そして、水中に飛び込み泳ぎ始めたら、もう笑いが止まらなかったそうだ。
練習が終わって部屋に戻ると、チームメイトから「誇りに思う」「うれしい」というメッセージが届いていた。それがキムの勇気となり、インスタグラムで公にカミングアウトすることを決意できた。
今日初めて、親友やチームメイトに自分のセクシュアリティ、つまりゲイであることを打ち明けたんだ。早くから自分がゲイであることは知っていたし、確信が持てたのは高校に入ってからだったが、誰にも言わず、このままこんな気持ちは消えていくのだろうと思っていた。
大学が始まってからは、軍隊の学校なので、もし自分がゲイであることを知られたらどうしようかと思った。
この夏、親友と一緒に初めてDCのプライドに参加し、自分が本当は何者なのかを恥ずかしがる必要はないことに気づいた。新しい友人や、古い友人や家族からのサポートを通して、ついにカミングアウトする勇気が湧いてきた。
そして今日、カミングアウトしたことで胸のつかえが取れたような気がしている。
私は学生であり、スイマーであり、コーチであり、息子であり、兄弟であり、犬の父親であり、友人であり、そしてゲイでもあります。
.インスタグラムに上記のメッセージを添えてカミングアウトした報告をすると、友人や家族、元チームメイトなどから、次々と祝福のメッセージが届いた。
自分らしく、正直に、楽しく
キムは、高校生のときに自分がゲイであることに気づいた。しかし、そのことをきちんと受け入れ、カミングアウトできるようになったのは22歳になってからだ。
子供の頃から17年以上水泳を続けてきたキムは、常に「周りの男子に溶け込みたい」「カッコいい子になりたい」と思っていたが、ゲイで自分にはそれは無理だ、と諦めていたという。
高校の頃から7年間、夏になると年下の選手たちに対して水泳コーチをしてきたキムは、選手たちがプールで優れた成績を収め、楽しみ、自分らしくいられるように刺激を与えたいと考えていた。
しかし、自分の性的指向を理由に彼らからの尊敬を受けられないことを恐れ、「自分らしくいられるように刺激を与えたい」という自分の指導方法に自ら背いてきた。しかし、それは間違いだったという。
なぜなら、インスタグラムでカミングアウトした後に、かつての教え子たちから次々と祝福のメッセージが届いたからだ。
カミングアウトした後に、キムはOUT SPORTSにこう語った。
「私は間違っていました。そして今、私は自分らしくいられることを知っています。カミングアウトしてからは、『自分らしく、正直に、楽しく』をモットーに生きていけるようになりました」
カミングアウトから6年、今年28歳になるキムはすっかり開放され、ゲイ・ライフを満喫しているようだ。大学生の頃とはちょっとびっくりするくらい印象が異なっている最近の姿は、キムのインスタグラムで確認してほしい。
※参考記事:OUT SPORTS
(冨田格)
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