サル痘が日本上陸する前に日本のゲイが知っておくべき「サル痘の基礎知識」

現在、欧米を中心に、主にゲイ・バイ男性の間で感染が拡大している「サル痘」だが、シンガポール、韓国、そして台湾でも感染報告があり、日本も他人事とは思えない状況になってきている。

サル痘は、ゲイ・バイ男性特有の病気ではなくまた性病でもないのだが、ゲイ・バイ男性の間で感染が拡大しているし、重症化して入院する例は少ないとはいえ、感染・発症するとかなり厄介な病気であることは事実だ。

サル痘が日本上陸しても慌てないように、日本のゲイ・バイ男性は今のうちに基礎知識をおさえておきたい。

目次

・サル痘ってどんな病気?
・どうしたら感染するの?
・治療薬やワクチンはあるの?
・ゲイが感染したらなぜヤバいの?

サル痘ってどんな病気?

サル痘
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まずはサル痘に感染した場合はどうなるのか、国立感染症研究所のサイトを参考にまとめる。

・潜伏期間は5~21日(通常7~14日)
・潜伏期間後は、発熱・頭痛・リンパ節腫脹・筋肉痛などが1~5日続く
(※腫脹=炎症が原因ではれあがること)
・その後、発疹が出現する
・発疹は顔から始まる例が多く、体幹部へと広がる
・最初は平たいが、徐々に水疱、膿疱化し膨れていく。
・発症から2~4週間で発疹が乾き、かさぶたとなって落ちる。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.html

発疹についてもう少し詳しい解説を、6月18日にWIREDが公開した記事「世界的に流行している『サル痘』について、知っておくべき6つのこと」から参照する。

最初は平坦で赤い発疹ができ、やがて水ぶくれとなり、白い膿が充満してくる。その後、これらは乾燥してかさぶた状になり、やがて治癒して剥がれ落ちる。不快ではあるが通常はそれほど重症化せず、2~4週間で回復することが多い。

https://wired.jp/article/everything-you-need-to-know-about-monkeypox/

では、サル痘はどこから始まったものなのか、こちらも国立感染症研究所のサイトを参考にまとめる。

・主にアフリカ中央部から西部にかけて発生
・自然宿主はアフリカに生息するげっ歯類が疑われている
(※げっ歯類=リス・ネズミ・ヤマアラシなど)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.html

獣医師/ジャーナリストの星良孝氏のYoutubeチャンネル「STELLA MEDIX」によると、

・サル痘には「西アフリカ系統群」と「コンゴ系統群」がある
・現在欧米で感染が広がっているのはすべて「西アフリカ系統群」である
・「コンゴ系統群」の方がより感染性や病原性が強い

https://www.youtube.com/watch?v=POltlSdBGWY

感染症に関するデータをリアルタイムで提供する国際的な連携組織「グローバルヘルス」がまとめるサル痘の確定症例や疑い症例をリアルタイムで監視する「サル痘トラッカー(Monkeypox Tracker)」では、最新の感染者数を確認できる。

ちなみに6月26日(日)現在で、全世界の確定症例は4,100例を超えている。感染者数が多い国は、イギリス、スペイン、ドイツ、ポルトガル、フランス、カナダ、オランダ、アメリカ、イタリア、ベルギーとなっている。

どうしたら感染するの?

サル痘
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では、サル痘はどうやって感染するのか、先述のWIREDの記事「世界的に流行している『サル痘』について、知っておくべき6つのこと」を参考にまとめる。

・患部の膿との直接接触
・感染者の衣服との接触
・タオル共有(シーツなどリネン類)
・呼吸器飛沫の吸入
・今回の流行では、皮膚同士が接触する可能性の高い性的接触が感染経路のひとつとなっている

https://wired.jp/article/everything-you-need-to-know-about-monkeypox/

現在、ゲイ・バイ男性の間で感染が拡大しているのは、性的接触が感染経路のひとつとなっていることで、ゲイ・バイ男性特有の性病だと勘違いしている人もいるようだ。また性病だと勘違いする理由はもうひとつある。

@DIMEが6月18日に公開した記事「米国でのサル痘感染症例はゲイやバイセクシュアルの男性、または男性とセックスする男性に集中、米疾病対策センター報告」を参照する。

今回の調査から、感染が確認された17人中16人が、ゲイ、バイセクシュアル、またはMSMであることが判明したという。※MSM=Men who have sex with men(ゲイ・バイに限らず男同士でセックスする人)

患者は全て成人で(平均年齢40歳、範囲28~61歳)、全員に発疹が認められた。発疹は、4人で陰部、5人で肛門周辺から始まっていた。最終的に口腔にまで発疹が現れた患者も5人いた。

https://dime.jp/genre/1408007/

顔から始まると言われているサル痘の発疹が、陰部や肛門周辺から始まる例もあることが、性病だと勘違いされる理由のもうひとつだ。

治療薬やワクチンはあるの?

サル痘
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サル痘は新しい病気ではないのだが、予防するためのワクチンはあるのだろうか。

5月30日、ナショナルジオグラフィック日本版が公開した記事「サル痘について今わかっていること、感染経路や治療薬、歴史など」を引用する。

米食品医薬品局(FDA)は2019年にデンマークのバイオ製薬ババリアン・ノルディックの天然痘・サル痘ワクチン「MVA-BN」(米国での販売名はジンネオス)を承認した。このワクチンを2回接種すれば、サル痘の発症や重症化を防ぐことができる。天然痘ワクチンとしてFDAに承認されている「ACAM2000」も使用が可能だ。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/053000244/?P=1

天然痘ワクチンの有効性に関して、毎日新聞が6月26日に公開した「サル痘、日本の流行を抑える手立て 天然痘ワクチンの効果は」を引用する。この記事では、国立感染症研究所で長年サル痘ウイルスの研究を続けてきた西條政幸・札幌市保健所医療政策部長が解説している。

感染が分かった人の濃厚接触者に、可能な限り早くワクチンを接種することです。天然痘の場合もそうですが、すでに感染していても感染直後にワクチンを接種することで症状が軽く済むことが期待できます。感染者の周りの濃厚接触者にワクチンを接種していく方法は「リングワクチネーション」と呼ばれ、天然痘の撲滅のときに使われた手法です。

https://mainichi.jp/articles/20220624/k00/00m/040/099000c

天然痘ワクチンは、サル痘に対しても有効なようだ。ここで気になるのは、1976年まで日本で実施されていた天然痘ワクチンの予防接種「種痘」を受けている世代は、今でもワクチンが有効なのか、ということ。

その点にも、前記の毎日新聞の記事で西條政幸氏が言及している。

効果は持続し、ワクチンを打っている人はウイルスに感染してもサル痘を発症しないと考えられます。仮に発症したとしても症状は軽くなるはずです。ワクチンを受けている人から感染が広がるリスクも極めて低いと考えられます。

https://mainichi.jp/articles/20220624/k00/00m/040/099000c

「種痘」を受けている世代は、すでに抗体を持っていると考えてもいいようだ。

現在、日本では天然痘ワクチンを接種することはできのだろうか?厚生労働省研究班「バイオテロ対応ホームページ」より引用する。

天然痘のワクチンである痘そうワクチンがサル痘にも有効である。感染数日以内ならば治療的に使用しても効果が認められると考えられる。しかし、痘そうワクチンは市販されていないためサル痘の予防用としての適用はない。

https://www.niph.go.jp/h-crisis/bt/other/30detail/

日本で感染拡大した場合、アメリカのように濃厚接触者がすぐに天然痘ワクチン接種を受けられる状況には現在はなっていないようだ。先述のナショナルジオグラフィック日本版「サル痘について今わかっていること、感染経路や治療薬、歴史など」によると

英国など一部の国では、感染者と濃厚接触した人に21日間の隔離を勧めている。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/053000244/?P=1

ということなので、日本でも濃厚接触者は自主隔離を求められる可能性もあると考えた方がよさそうだ。

では、治療薬に関してはどうだろう。先述のナショナルジオグラフィック日本版「サル痘について今わかっていること、感染経路や治療薬、歴史など」を引用する。

サル痘治療薬として承認されている薬はない。FDAは2018年に経口抗ウイルス薬「テコビリマット」を天然痘治療薬として承認したが、この薬がヒトの天然痘やサル痘に有効であることを示すデータはない。サル痘の重症患者に対しては、このほかに抗ウイルス薬「シドフォビル」や、抗体であるワクシニア免疫グロブリン(VIG)が用いられることがある。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/053000244/?P=1

重症化しない場合は、サル痘であると確定したら自宅で2〜4週間の自主隔離をして、発疹が乾きカサブタとなって剥がれ落ちるまでひたすらじっとしているしか、現時点では方法がないようだ。

ゲイが感染したらなぜヤバいの?

サル痘
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サル痘に関する基礎知識、ご理解いただけたであろうか? 最後に、なぜゲイ・バイ男性にとってサル痘が脅威であるのかを解説する。

■現在はゲイ・バイ男性を中心に広がっていること

5月にスペインのカナリア諸島で開催されたプライド・イベントや、スペインのハッテン場、そして5月にベルギーで開催されたレザーゲイが集まるフェチ・イベントなどの参加者・利用者からサル痘を発症した人が多く見つかったこと。

そして、以降、欧米のゲイ・バイ男性を中心に感染拡大しているために「サル痘=ゲイ・バイ」というイメージがすでに定着している。

■顔にも発疹が出るので、歩くカミングアウト状態

基礎知識で説明したように、サル痘特有の発疹は顔や腕など人から見える部分に出るので、隠すことは難しい。

■クローゼットは周囲にバレる

もし家族や友人、会社などでゲイであることを隠しているクローゼットな人の場合、サル痘を発症すると、ゲイ・バイだと周囲の人に思われる可能性が非常に高い。

■浮気で感染したら速攻バレる

もし恋人や、既婚ゲイ・バイの場合は配偶者に隠れてこっそり浮気をして感染・発症した場合、まず100%の確率で浮気がバレてしまい、自主隔離に加えて精神的にも針のむしろ状態になる可能性が非常に高い。

■長期の自主隔離で社会生活に影響

サル痘を発症したり濃厚接触者になって2~4週間の自主隔離をせざるを得なくなった場合、誰もが感染する可能性があるコロナと違い、会社や学校など周囲からは厳しい・冷たい視線を浴びせられる可能性が非常に高い。

ゲイ・バイ男性特有の病気・性病ではないにも関わらず、現在はゲイ・バイ男性の性的接触によって感染拡大しているために、日本のゲイにとってもヤバい感染症だと認識しておくことが必要だ。

日本でサル痘の感染報告は為されたとしても、慌てることなく最新の情報を入手して、リスクを軽減することを考えていきたい。これからもジオ倶楽部では、サル痘の最新情報を紹介していく。

(冨田格)

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