映画「PLAN75」鑑賞記・死を選択できる近未来は高齢者にとって幸福なのか不幸なのか?

独身ゲイにとって、老後への不安は決して小さいものではない。しかし、まだ元気でいる間は、自分の老後はなかなかイメージできず、漠然とした不安だけを抱いてしまうものだ。

6月17日(金)より公開が始まった映画「PLAN75」は、老後の具体的なイメージを抱けない独身ゲイにとって必見の映画と言えそうだ。

75歳以上が自ら人生を終える選択ができる社会

PLAN75

映画「PLAN75」の舞台は、超高齢化社会となった近未来の日本。

少子高齢化が進むため若者が高齢者を支える図式に無理が生じて、高齢者施設への襲撃が相次いだことから議論が進み、75歳以上の高齢者が自分で死を選択できる「プラン75」が国策として始まる。

「プラン75」の開始から10年が経ち、絶望的な超高齢化が進んでいた日本にも明るい兆しが差し込み始める。「プラン75」関連の民間ビジネスも盛んになり、大きな経済効果を産みはじめ、「プラン65」の議論も始まろうとしている。

この映画が描くのは、国のシステムが整い経済効果も小さくないという「陽」の面ではなく、「プラン75」を選択せざるを得なくなる独り身の高齢者と、システムに関わることで疑問を抱くようになる若者の姿という「陰」の面だ。

PLAN75

作中人物に自分を投影し将来のあり方を考える

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淡々と、ある種非人間的に進んでいく「プラン75」のシステムに関わる若者たちに生じる疑念も非常に興味深いのだが、還暦が近づいている筆者にとっては、作中で描かれる高齢者の姿に心情が重なっていく。

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身近に高齢者がいないとなかなかイメージしづらいかもしれないが、加齢とともに体力・気力ともに奪われていき、若い頃と同じように動くこともできない。そんな状態でも、裕福でない独身の高齢者は、生きていくために働かざるを得ない。

すでに現実になっているこの状況を、この作品では静かに、丹念に描写していく。そこに自分のそう遠くない将来の姿を重ねながら見てしまうのだ。

PLAN75

そして自分がもし、作中の人物だったらどういう選択をするのだろうか、と考える。いうことを効かなくなっている体を引きずって、生きるために社会の厄介者扱いをされながら働き続けるのか。もしくは、「プラン75」を選択して、人生に終わりを告げるのか。

PLAN75

映画は2人の高齢者の選択に焦点をあてる。どちらも、身につまされるような状態から「プラン75」を選択しようとするのだが、その結末はなんとも対照的だ。

PLAN75

自分が作中の人物だったらどういう選択をするのか、「プラン75」は現代の姥捨山「楢山節考」なのか、それは高齢者にとって不幸なのか、はたまた自分の意思で人生を終えられる幸福なのか、色々なことを考えながらスクリーンから目が離せない不思議な鑑賞体験だった。

PLAN75

PLAN75
監督・脚本:早川千絵
出演:倍賞千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優実、ステファニー・アリアン、大方斐紗子、串田和美 ほか
2022年製作/112分/G/日本・フランス・フィリピン・カタール合作
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/plan75/

(冨田格)


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