ゲイのカテゴリー「クマ系」が誕生した経緯とクマ系にまつわるトリビア集

巷で話題の鳥羽修作シェフが「(ある種の)ゲイにとっては橋本環奈のような存在」という事実にノンケは理解不能で騒然となったが、ゲイ・バイ男性にとっては納得できたはず。なにせ鳥羽氏は見るからに「クマ系」のルックスなのだから。では、「クマ系」はいつ頃誕生したカテゴリーなのだろう?

「クマ系」の誕生は1970年代終わり頃

ゲイ・ベアーの歴史とトリビア
アンソニー(Anthony)画像引用元:Instagram

今でこそ「GMPD」などと呼ばれる体が大きいタイプは人気があるが、1980年代当時の日本のゲイの世界ではバランスのとれたスポーツ体型(アスリート体型)が人気の中心であり、「デブ専」はマニアックな扱いを受けていた。

今でこそ「ガチムチ」「ガチぽちゃ」などのカテゴリーが存在しているが、80年代にはスポーツ体型とデブの間を表現するカテゴリー(形容詞)はなかった。

実はアメリカでも似たような状況だったようで、「クマ系」というカテゴリーが誕生したのは1970年代終わりの頃のようだ。

そんな「クマ系」の歴史と、ちょっとした雑学を集めたQUEERTYの記事『総合ガイド:ゲイ・ベアーのファジーな世界』から興味深い点をピックアップして紹介する。

「クマ系」のサブ・カテゴリー

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(左)ジェームズ・パー(James Parr) 画像引用元:Instagram

まずは「クマ系」の中でも細分化しているサブ・カテゴリーの話題から。

「アーバン・ディクショナリー」によると、ゲイ・ベアとは毛むくじゃらで体格のいいゲイのこと。しかし、その身体的特徴は人によって異なり、毛、脂肪、筋肉の程度が異なる多くの自称ゲイ・ベアを見つけることができる。

Cub(カブ:子グマ)多くの場合、背が低く、若く、体毛がまだ濃くない成長中のクマのような雰囲気。恋愛関係においてより受動的なパートナーである可能性が高い。

Muscle Bear(マッスル・ベアー:筋肉熊)体毛が濃いゲイ・ベアーの特徴を体現しているが、贅肉の量が少ない筋肉質である。

Otters(オッター:カワウソ) 痩せ型で、体格が小さく、毛深いタイプをカワウソと呼ぶ、クマの弟分のようなもの。

Polar bears(ポーラー・ベアー:北極熊) 高齢者のクマ系、クマ系のパパのようなもの。「ポーラー」は白髪を意味する。

「クマ系」の起源と論争

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ダニ(Dani)画像引用元;Instagram

続いて「クマ系」の起源を探る。

ゲイ・ベアというカテゴリーが誕生したのは、1979年に『Advocate』誌に掲載された「Whose Who at the Zoo」という記事が最初だという。これは、ゲイの性格を7つのステレオタイプに分けて動物園の動物になぞらえたものだった。

ところが「クマ」のプロフィールに一部のゲイが過剰に反応した。それは、アメリカの田舎に住む白人ゲイの労働者階級の美学と合致する面が多かったからだという。

その後、1987年に創刊した『ベアー・マガジン』によって「ゲイ・ベアー」はより多くのゲイに認知されるようになり一般的なカテゴリーへと成長していった。これぞベア・ライフスタイルの幕開けでもあった。

当初はワイルドな労働者階級の美学と合致していた「ゲイ・ベアー」だが、一般化する過程で「ベア系」を自認するゲイが増えていった。

そして「ゲイ・ベアー」とは何であるか、という論争が始まっていった。都会的で洗練されたワイルドとは無縁のライフスタイルを送るゲイを「ベアー」と呼ぶべきではないという一派と、体が大きくて髭に体毛があれば「ベアー」だと認めるより包括的で寛大な一派による論争は長く続いている。

「ゲイ・ベアー」というアイデンティティは、「ゲイ・ベアー」を自認するゲイたち自身が社会的なつながりや帰属意識を形成し、性的な快楽を目的とした団体やイベントが生まれることで、繁栄するサブカルチャーへと成長していった。

1995年にレス・K・ライト氏が設立した「ベア・ヒストリー・プロジェクト」は「ゲイ・ベアー」の進化を記録し、コーネル大学の「ヒューマン・セクシュアリティ・コレクション」にアーカイブしているそうだ。

ゲイ・ベアーがサブカルチャーになった理由

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オリ・ミロン (Ori Miron) 画像引用元;Instagram

では、なぜ「ゲイ・ベアー」がサブカルチャーとなるほど繁栄したのだろうか。

簡単に言えばゲイのサブカルチャーは、人々がセクシーで楽しい方法で自分の身体性を表現する方法だ。

今でこそゲイの好みは幅広く様々なカテゴリーが一般化されている米国でも、1970年代当時は体毛の少ない滑らかな肌で筋肉の陰影がはっきりしたアスリート体型がゲイのヒエラルキーの王座に座り続けていた。

筋肉の上に脂肪がのった大柄で毛深いゲイは、ゲイが好む体型の最終目標がシックス・パックの腹筋であった世界で、自分が持つ理想像とは異なる肉体も称賛されることを望んでいたのだ。

「ゲイ・ベアー」のカテゴリーが隆盛していくことで、過去のゲイのヒエラルキーの構造が崩れはじめ、主流ではなかった体型をセクシーだと感じる人々が増えていった。それによってゲイ・ベアーたちは、自分の肉体に魅力を感じる相手を見つける力を得ていった。

これはゲイの美意識が変化したのではなく、ゲイの好みの体型・カテゴリーに多様性があっていいと認識されたことだと考えている。なぜなら、現在もかつてと同じく滑らかな肌のアスリート体型を好む人もいれば、それと同じようにクマ系を好む人もいるからだ。

ゲイの好みのカテゴリーが幅広くなることは、多くのゲイ・バイ男性が自分の肉体をポジティブに受け入れることにもつながっていく。これからも、まだ言語化されていない新たな男の好みのカテゴリーが生まれて、人気を集めていくかもしれない。期待を込めて、見守っていきたい。

※参考記事:QUEERTY

(冨田格)

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